第9話 11月14日

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 慧も琴音もひとまずは安堵出来た。  それほど冬真にとって大雅が必要なのであれば、彼がすぐに殺されるということはないだろう。  琴音は腕を組み、嘲笑した。 「よっぽど嫌われてるのね。何度忘れさせても楯突かれるなんて」  冬真は「悲しいな」などと、わざとらしく肩をすくめる。 「さて……そろそろお喋りにも飽きてきたな」  冬真がそう言うと、瑠奈は自身の肩に触れた。  その瞬間、瑠奈がもう一人現れる。  慧たちは思わず、二人の瑠奈を見比べる。  和泉から奪った魔法はあれなのだろう。物体を複製する能力だろうか。  陽斗のコピー魔法が魔法のみをコピーする能力であるならば、瑠奈の方は物体のみをコピーする能力なのだろう。  瑠奈が複製を繰り返すと、この場に何人もの彼女が現れる。  複製された瑠奈はオリジナルと連動しているのか、本体と同じ動きをしており、本物の瑠奈は完全に紛れ込んでしまった。  偽物とはいえ、同じ人間が複数存在する光景は、何とも奇妙なものである。 「厄介ね……」 「まったくだ」  琴音と慧は最大限警戒しながらぼやく。  思わぬところから飛んでくる攻撃を、ひたすら避け続けた。  慧は手当り次第にスタンガン程度の雷を食らわせるが、瑠奈の複製は次々生み出されキリがない。  何処かから石弾が飛んでくるが、一向にその元に辿り着けない。  琴音は慧の意図を汲み、魔法を温存していた。  下手に使えば、琴音が冬真の狙う相手だとバレてしまう。 「!」  石弾を避けながら、琴音は瑠奈たちの隙間に冬真を見つけた。  石柱に背を預け、悠々と立っている。 (こいつを飛ばせば……)  琴音は冬真に駆け寄り、右手を翳した。 「残念、偽物でした」  何処からか、瑠奈の笑い声がした。  その瞬間、周囲から大量の瑠奈が消え去る。  戸惑いを拭えないうちに、琴音の両脚と右手が石化された。 「な……っ」 「瀬名!」  焦ったような慧の声が聞こえた。  そんな張り詰めた空気を、瑠奈の楽しげな笑い声が揺らす。  正確には、冬真の、なのだろうが。 「君が瀬名琴音だったか。瞬間移動のトリガーは右手かな」  慧が琴音を呼ぶ前、偽物の冬真に魔法を使おうとした時点で、冬真には琴音が狙いの魔術師だとバレたのだろう。  そして彼の言う通り、琴音の魔法は右手からしか発動出来ない。露呈すると、それもまた弱味の一つと言えた。 「せっかくだから瑠奈ちゃん本人にやらせてあげようかな」  くす、と笑った冬真は瑠奈の額に触れ、傀儡を解いた。  我を取り戻した瑠奈は琴音を見据えつつ、指先にツインテールの毛先を巻き付ける。 「あーあ、ステッキがないと調子が出ないんだけどなぁ」  瑠奈はぼやきつつも強気な笑みを湛え、冬真を振り返った。 「でもありがとう、冬真くん。見ててずっとうずうずしてたの……。やっと、琴音ちゃんを殺せる」  瑠奈は人差し指の先を琴音に向け、何発も石弾を放った。  魔法も封じられ、両脚も固められた琴音は、その場から動けない。  咄嗟に慧が瑠奈に雷撃を放った。 「!」  バチッ! 鋭い音が響く。  命中した瑠奈は昨晩同様、意識を失ってその場に倒れ込んだ。  だが、石弾は止まらない。  勢いよく迫るそれを、琴音は見開いた瞳で捉えた。 「……っ」
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