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慧も琴音もひとまずは安堵出来た。
それほど冬真にとって大雅が必要なのであれば、彼がすぐに殺されるということはないだろう。
琴音は腕を組み、嘲笑した。
「よっぽど嫌われてるのね。何度忘れさせても楯突かれるなんて」
冬真は「悲しいな」などと、わざとらしく肩をすくめる。
「さて……そろそろお喋りにも飽きてきたな」
冬真がそう言うと、瑠奈は自身の肩に触れた。
その瞬間、瑠奈がもう一人現れる。
慧たちは思わず、二人の瑠奈を見比べる。
和泉から奪った魔法はあれなのだろう。物体を複製する能力だろうか。
陽斗のコピー魔法が魔法のみをコピーする能力であるならば、瑠奈の方は物体のみをコピーする能力なのだろう。
瑠奈が複製を繰り返すと、この場に何人もの彼女が現れる。
複製された瑠奈はオリジナルと連動しているのか、本体と同じ動きをしており、本物の瑠奈は完全に紛れ込んでしまった。
偽物とはいえ、同じ人間が複数存在する光景は、何とも奇妙なものである。
「厄介ね……」
「まったくだ」
琴音と慧は最大限警戒しながらぼやく。
思わぬところから飛んでくる攻撃を、ひたすら避け続けた。
慧は手当り次第にスタンガン程度の雷を食らわせるが、瑠奈の複製は次々生み出されキリがない。
何処かから石弾が飛んでくるが、一向にその元に辿り着けない。
琴音は慧の意図を汲み、魔法を温存していた。
下手に使えば、琴音が冬真の狙う相手だとバレてしまう。
「!」
石弾を避けながら、琴音は瑠奈たちの隙間に冬真を見つけた。
石柱に背を預け、悠々と立っている。
(こいつを飛ばせば……)
琴音は冬真に駆け寄り、右手を翳した。
「残念、偽物でした」
何処からか、瑠奈の笑い声がした。
その瞬間、周囲から大量の瑠奈が消え去る。
戸惑いを拭えないうちに、琴音の両脚と右手が石化された。
「な……っ」
「瀬名!」
焦ったような慧の声が聞こえた。
そんな張り詰めた空気を、瑠奈の楽しげな笑い声が揺らす。
正確には、冬真の、なのだろうが。
「君が瀬名琴音だったか。瞬間移動のトリガーは右手かな」
慧が琴音を呼ぶ前、偽物の冬真に魔法を使おうとした時点で、冬真には琴音が狙いの魔術師だとバレたのだろう。
そして彼の言う通り、琴音の魔法は右手からしか発動出来ない。露呈すると、それもまた弱味の一つと言えた。
「せっかくだから瑠奈ちゃん本人にやらせてあげようかな」
くす、と笑った冬真は瑠奈の額に触れ、傀儡を解いた。
我を取り戻した瑠奈は琴音を見据えつつ、指先にツインテールの毛先を巻き付ける。
「あーあ、ステッキがないと調子が出ないんだけどなぁ」
瑠奈はぼやきつつも強気な笑みを湛え、冬真を振り返った。
「でもありがとう、冬真くん。見ててずっとうずうずしてたの……。やっと、琴音ちゃんを殺せる」
瑠奈は人差し指の先を琴音に向け、何発も石弾を放った。
魔法も封じられ、両脚も固められた琴音は、その場から動けない。
咄嗟に慧が瑠奈に雷撃を放った。
「!」
バチッ! 鋭い音が響く。
命中した瑠奈は昨晩同様、意識を失ってその場に倒れ込んだ。
だが、石弾は止まらない。
勢いよく迫るそれを、琴音は見開いた瞳で捉えた。
「……っ」
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