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そうではないのだと教えてくれたのは、紛れもなく“仲間”の存在だった。
それを救えたのなら、変化のきっかけをくれた琴音を守れたのなら、悔いることは何もない。
今は心からそう思えた。
そんな自分の変わり様も、恥ずかしげもなく仲間などと口走ることも、この結末も、慧にとっては満ち足りていた。
「望月……っ」
琴音はしがみつくように慧の肩を掴んだ。
慧は目を閉じたまま動かない。微弱な呼吸も聞こえない。
不意に、強い孤独感が琴音に伸し掛った。信じたくなくて、琴音は何度も慧を呼んだ。
「馬鹿……!」
涙の隙間で必死に悪態をついた。そうしなければ、悲しみに飲まれてしまいそうだった。
慧は瑠奈の攻撃から自分を庇い、その結果死んでしまったのだ。
自身でも戸惑うくらいに泣いた。
自分にそれほどの価値があっただろうか。
慧は本当にこれで良かったのだろうか。
答えの出ない問いを永遠と繰り返し、戻らない時間の無情さと命の儚さに咽び泣き続けた。
────琴音が落ち着きを取り戻した頃には、大雅たちにかけられた術も解けていた。
「…………」
琴音は地面に転がっていた石を憎々しげに睨む。
そのうちの一つを手に取ると、八つ当たりするように柱に向かって投げた。
それから、はたと思いついたように別の大きめの石を拾い上げると、倒れたままの瑠奈にゆらりと歩み寄る。
「……?」
何か物音が聞こえたような気がして、大雅は目を覚ました。
血まみれで横たわる慧、石の残骸、強い眼差しで瑠奈を見下ろす琴音。
(嘘だろ……)
それらを見て一瞬で現状を把握する。琴音が何をしようとしているのかも。
大雅は慌てて起き上がり、琴音の腕を掴んだ。
「やめろ! 復讐なんか意味ねぇよ」
「離して! 分かったようなこと言わないでよ」
珍しく冷静さを欠いている琴音は、大雅の言葉を拒絶し、腕を振り払った。
その場に膝をつき、石を振り上げる。あくまで瑠奈への復讐を強行する気だ。
「おい、小春の言葉を忘れたのか? 魔術師同士で殺し合ってる場合じゃねぇだろ」
小春がその話をしていたとき、大雅は意識を失っていたはずだ。何故知っているのだろう。
一瞬疑問が過ぎったが、気に留めている余裕は、琴音にはなかった。
「だとしても、こいつは許せないわ! 必要なら能力だけ奪えばいい。こいつ本人は死ぬべきよ」
それを聞いた大雅は琴音の腕を掴み、石を強引に取り上げた。地面に捨てる。
「慧がそれを望んでると思うか」
その言葉に琴音の瞳が揺れる。
「慧もそう思ってるなら、とっくにそいつを殺してた。殺すことも出来たのに、慧はそうしなかった」
琴音は唇を噛み締め、拳を握り締める。
「お前がそれを無駄にするのか? 否定すんのか?」
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