第9話 11月14日

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 そうではないのだと教えてくれたのは、紛れもなく“仲間”の存在だった。  それを救えたのなら、変化のきっかけをくれた琴音を守れたのなら、悔いることは何もない。  今は心からそう思えた。  そんな自分の変わり様も、恥ずかしげもなく仲間などと口走ることも、この結末も、慧にとっては満ち足りていた。 「望月……っ」  琴音はしがみつくように慧の肩を掴んだ。  慧は目を閉じたまま動かない。微弱な呼吸も聞こえない。  不意に、強い孤独感が琴音に伸し掛った。信じたくなくて、琴音は何度も慧を呼んだ。 「馬鹿……!」  涙の隙間で必死に悪態をついた。そうしなければ、悲しみに飲まれてしまいそうだった。  慧は瑠奈の攻撃から自分を庇い、その結果死んでしまったのだ。  自身でも戸惑うくらいに泣いた。  自分にそれほどの価値があっただろうか。  慧は本当にこれで良かったのだろうか。  答えの出ない問いを永遠と繰り返し、戻らない時間の無情さと命の儚さに咽び泣き続けた。  ────琴音が落ち着きを取り戻した頃には、大雅たちにかけられた術も解けていた。 「…………」  琴音は地面に転がっていた石を憎々しげに睨む。  そのうちの一つを手に取ると、八つ当たりするように柱に向かって投げた。  それから、はたと思いついたように別の大きめの石を拾い上げると、倒れたままの瑠奈にゆらりと歩み寄る。 「……?」  何か物音が聞こえたような気がして、大雅は目を覚ました。  血まみれで横たわる慧、石の残骸、強い眼差しで瑠奈を見下ろす琴音。 (嘘だろ……)  それらを見て一瞬で現状を把握する。琴音が何をしようとしているのかも。  大雅は慌てて起き上がり、琴音の腕を掴んだ。 「やめろ! 復讐なんか意味ねぇよ」 「離して! 分かったようなこと言わないでよ」  珍しく冷静さを欠いている琴音は、大雅の言葉を拒絶し、腕を振り払った。  その場に膝をつき、石を振り上げる。あくまで瑠奈への復讐を強行する気だ。 「おい、小春の言葉を忘れたのか? 魔術師同士で殺し合ってる場合じゃねぇだろ」  小春がその話をしていたとき、大雅は意識を失っていたはずだ。何故知っているのだろう。  一瞬疑問が過ぎったが、気に留めている余裕は、琴音にはなかった。 「だとしても、こいつは許せないわ! 必要なら能力だけ奪えばいい。こいつ本人は死ぬべきよ」  それを聞いた大雅は琴音の腕を掴み、石を強引に取り上げた。地面に捨てる。 「慧がそれを望んでると思うか」  その言葉に琴音の瞳が揺れる。 「慧もそう思ってるなら、とっくにそいつを殺してた。殺すことも出来たのに、慧はそうしなかった」  琴音は唇を噛み締め、拳を握り締める。 「お前がそれを無駄にするのか? 否定すんのか?」
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