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あえて厳しい口調で言う。
琴音が感情的になるのも無理はない。それは理解出来る。
それでも、我を見失ってはならない。
「殺したら……お前もそいつと同じだぞ」
大雅は瑠奈を見下ろして言った。
その静かな声色に、琴音は肩を震わせる。
気付けば慟哭していた。
悔しく、腹立たしい。報復すら叶わないもどかしさ、己の無力さが恨めしくて堪らない。
身勝手な冬真や瑠奈が憎い。
しかし、それは元を辿れば小春の言う通り、運営側のせいである。
こんなゲームに巻き込まれていなければ、慧がこんなふうに命を落とすことはなかった。
「うぅ……っ」
そして、大雅の言うことも正しい。
自分が瑠奈を殺せば、これほど忌まわしい瑠奈とまさしく同類である。
慧が復讐を望んでいるはずもなく、琴音が独断でそれを強行すれば、ただの自己満足でしかない。
涙を拭った琴音は深く息をついた。震える呼吸を落ち着ける。
「……ごめんなさい。私が間違ってた」
大雅は表情を変えることなく、黙って琴音に目をやる。
いくらか平静を取り戻したようだ。
「名花へ行きましょ。……小春たちにも、望月のことを伝えなきゃ」
「……ああ」
す、と翳した右手で大雅に触れる。
他校生であることなど今はもう関係ない。屋上なら問題なく入り込めるはずだ。
大雅を飛ばした琴音は、瑠奈を見下ろした。
目を閉じ、深く息を吸う────。
滾るような激情とどうにか折り合いをつける。
(私は、こいつとは違う……)
瑠奈に触れ、彼女を近場の公園へ飛ばした。
爆発しそうになる心を必死で抑え留める。
それから、自身と慧は大雅に続き、名花高校の屋上へと瞬間移動した。
授業どころではなくなっていた小春たちは教室を抜け出し、既に屋上で大雅と合流していた。
「望月くん……? な、何が、あったの……?」
白い顔で目を閉じたまま動かない慧を見て、一同の胸の内で嫌な予感が増幅していく。
小春は不安気な声で尋ねた。
「瑠奈の攻撃から私を庇って亡くなった」
琴音は一息で答える。
事実を淡々と述べたが、未だ信じ難く、受け入れ難い。
息苦しさを覚えたのは、魔法の反動のせいだけではないだろう。
「嘘だろ……」
「瑠奈はどうしたん?」
アリスが硬い声色で問うた。
この場にいないということは、まさか────。
「学校近くの公園に飛ばしておいたわ。望月のお陰でまだ眠ってるはずだけど、そろそろ解けるかも」
「……何があったの?」
小春たちがあの場を離れてから瑠奈が目覚めてしまったのだとしても、琴音の能力があれば、対処は容易なはずだ。
慧が命を落とすほど追い詰められるだろうか。
「如月が現れたの」
忌々しい冬真の微笑み顔が思い出される。
琴音の中で沸々と怒りが込み上げ、眉頭に力が込もった。
小春たちはその言葉に驚愕する。そんなことが起きていたとは……。
自分たちも残るべきだったかもしれない、と悔やまれる。
それでどうにかなっていたかは分からないが、だとしても────。
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