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「あいつが瑠奈を目覚めさせて、私は石化で動けなくなった。望月が昨晩みたいに雷撃で気絶させてくれたけど……石弾は止まらなくて」
それから琴音を庇った慧が深手を追い、命を落としてしまったというわけだ。
沈痛な面持ちで慧を見やる。
血や傷にまみれていても、その表情は何処か満足気だ。
「……悪ぃ、俺のせいだ」
大雅は俯いた。
逆らえなかったとはいえ、居場所を明かしたのは紛れもなく自分自身だ。
「違うわ、私のせいよ。私が油断したばっかりに……」
瑠奈になど負けるはずがなかった。能力が使えたなら、慧のことも失わずに済んだ。
過ぎ去ったことに“もしも”はないが、悔やまれてならない。
思い詰めたように目を瞑った琴音を見て、小春はその手を取った。固く握り締めた拳を包み込む。
「琴音ちゃんのせいじゃないよ。大雅くんのせいでもない。望月くんがしたことは望月くんの意思……だから、残された私たちが悔やむのはやめよう?」
小春は涙を滲ませながら、必死で言葉を紡いだ。
慧の死を悼みこそすれ、各々が自責の念に駆られるのは、慧とて不本意なはずだ。
「辛かったよね。でも、思い留まってくれたんだね。琴音ちゃんは優しいよ……、ありがとう」
仇敵とも言える瑠奈を前にしても、琴音は彼女を殺す選択を踏みとどまった。
全面的に小春の主張が響いたわけではなかったとしても、結果的にそれを尊重する形となった。
大雅は目を伏せ、琴音は涙を流す。
実際には寸前まで、激情に負けそうになっていた。
そうしなくて良かった、と思えた今なら、心に絡みついてきていた呵責の念が、徐々に緩んでいく気がした。
慧のためにも仲間のためにも、正しい判断をしたのだと思えた。
────この場にいない奏汰には、大雅からテレパシーで慧の死について伝えておいた。
突然の凶事に各々ショックを隠し切れない。
「だけど……困ったもんだな」
ぽつりと蓮が呟く。
こちらが敵意を堪えて歩み寄っても、冬真たちとは相容れないかもしれない。
蓮の言葉がそういう意味だということは、この場にいる全員が理解していた。
ゲームに対して乗り気な上、話の通じる相手ではないのだ。
また、琴音にとっても難しい問題だろう。
万一にも彼らと打ち解ける機会が訪れたとしても、彼女は瑠奈を拒絶するはずだ。
当然、他の面々も瑠奈のしたことや冬真の魂胆は許せない。
しかし、小春の信念に基づけば、そんな彼らのことも受け入れるべきだということだ。
アリスは不満気な苦笑を浮かべる。
「厳しいんちゃうか? あんな奴らと仲良しこよしなんて」
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