第9話 11月14日

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 仲間が殺されても笑って許し、大手を広げて歓迎出来るような仏の心など、自分たちは持ち合わせていない。  慧の無念を思えば、それが正しいのかも分からない。  ただ、いいように殺られるだけなのではないか? 「でも、私は……誰も傷つけたくないし、殺したくない。皆にも殺し合いなんてして欲しくないの」  小春の言葉に、アリスはうんざりと呆れたようなため息をついた。綺麗事もいいところだ。 「そんなこと言っても……。また狙われたらどうすんねん。自衛のために反撃するのは致し方ないことやろ。その結果、殺してしまったとしても」 「そのときは、襲われたときは、私が助ける。私が守る、皆のこと」 「どうやって?」  毅然と言い切った小春に、アリスはすぐさま食い下がった。 「小春の魔法は攻撃に向かへんやん。まぁ、誰も傷つけたくないあんたにはぴったりかもしれへんけどな」  アリスは皮肉のように言った。  守るとは言うが、どうするつもりでいるのだろう。  傷つけたくないからと、こちらは攻撃せずひたすら逃げ回る気なら、それは“守る”とは言わない。  蓮は窺うように小春を見やった。  アリスの言い分は分かるし、小春の考えを余すことなく読み取ることも出来ず、彼女自身の言葉を待つ他なかった。  しばらく黙り込んだ小春は、一瞬俯いた顔を上げる。凜として迷いのない眼差しを向けた。 「考えてることがある。もう少しだけ待ってくれないかな……? 口だけでは終わらせないから」 *  はっ、と息をのむようにして瑠奈は目を覚ました。  慌てて身を起こし、周囲を見渡すと、ここが学校からほど近い公園であることが分かった。  瑠奈の座っているベンチからは、遊具で遊ぶ親子の姿も見える。  何故こんなところにいるのだろう。高架下で戦っていたはずなのに────。  指先に痺れるような感覚があり、ひりつく皮膚を撫でた。  慧による雷撃を受け、気を失ったのだ。その直前、琴音に石弾を放ったが、あれはどうなったのだろう?  ……いや、そうか。瑠奈がここにいる時点で琴音は生きているということだろう。  誰かに直接運ばれていない限り、琴音に瞬間移動させられたということだ。 「くそっ!」  瑠奈は金切り声で毒づいた。  また、失敗した。最後のチャンスだったのに。  しかし、何故生かされているのだろう。またしても仕損じた自分を嘲笑っているのだろうか。  ぎゅう、と悔しげに拳を握り締めた。  次に琴音と顔を合わせたら、そのときは、恐らく命はない。 *  夜が更けた星ヶ丘高校の屋上で、冬真は珍しく苛立っていた。  こう何度もしてやられると、さすがに我慢ならない。しかし、どうしたものか。 「…………」  律は警戒を深めながら大雅を観察する。  大雅はその視線に気付かない振りをしていた。  記憶が戻っていないと思わせるため、あえてここへ来たのだった。  また、冬真が琴音の魔法を為す術なく直に受けた今なら、そう簡単に“殺しに行け”と命じられることもないだろうと踏んだ。  それ以前に、二度と絶対服従の術になどかかるつもりはない。
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