第1話 11月4日

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 近くで見ると、より不気味さが際立っていた。  左手首から先までしかないが、人間の手をそのまま固めたかのようなリアルさだ。  骨付きや筋肉から、この手は恐らく男性もしくは男子のものだろう。 「美術部の作品かな?」  芸が細かく、手首には腕時計をつけている。  裏側を覗き込めば、時刻まで読み取れた。デジタル表記で二十時四分。 「美術部っても、石像なんか作れるか?」  蓮は眉を顰め、手を持ち上げた。 「あんまり触らない方が……」  小春は窘める。ここに置くことで完成するアートなのかもしれないのだ。  それ以前にそもそも誰かの作品ならば、下手に触れて壊したら取り返しのつかないことになる。  蓮は緩慢とした動きで石像を観察してから元に戻した。  石膏ならばともかく、これは完全に石から出来ている。  美術部に属したこともなければ、その活動にも詳しくはないため実情は不明だが、美術部は石まで扱うのだろうか。  だが、何となくこれを“作品”と呼ぶには相応しくないような気が蓮にはしていた。  手首から先しかないのは、折れたか割れたからなのではないだろうか。  観察の結果分かったことだが、断面が平らでなく不規則に凹凸しているのだ。 「ん……? これって────」  何かを閃いた蓮は再び石像を手に取る。  その腕時計をまじまじと眺めると、さっと青ざめた。 「何? どうしたの?」  様子の変化に気付いた小春は思わず尋ねた。蓮は慌てて石像を離す。  地面に落ちたそれはゴトッと重い音を立てたが、芝生であったために割れることはなかった。 「ちょっと、危ないよ。もっと慎重に────」 「触るな!」  石像を拾い上げようと、屈んで手を伸ばしていた小春は、蓮の怒声にびくりと動きを止めた。 「……どう、したの」  突然のことに戸惑いながら、瞠目して蓮を見つめた。  蓮は申し訳なさそうな、気まずそうな表情を浮かべつつ謝る。 「悪ぃ、大声出して。もう行こうぜ」 「え? ちょっと……」  一方的に小春の手首を掴み、早足で校門まで歩いていく蓮。  小春はついて行くので精一杯だった。  手首を掴む力が一歩進むごとに強くなっていく。「待って」と呼びかけても、蓮は一向に足を止めない。 「待ってってば!」
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