不特定多数の男との繋がり

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 あたしは昨日の夜、ナンパされた男とセックスをした。その代わり、3万円もらった。あたしは高校には進学せず、知らない男と関係を持ち、住まわせてもらっている。  お金がなくなると、いろんな男に体を売り、小遣い稼ぎをしている。地道に働くなんて嫌だ。面倒くさい。汗を流して働くのは、そこら辺の男と性行為をして流す汗だけで十分。  あたしのことを淫乱女とか、頭がおかしいなどと言ってくる最低な男もいる。まあ、こういう生活をしているあたしも最低かもしれないけれど。  こんな生活を半年は続けた。身も心もボロボロ。好きでもない男に抱かれて、ただ、お金のためにやっているだけ。  いま、住まわせてもらっている男の名前は、前沢正(まえざわただし)という。彼との出逢いはやはりナンパだった。真面目そうな人だと思ったので、こっちから声をかけた。少し喋ってみて、案の定、真面目な人。「お小遣いをくれたら抱かせてあげる」と言うと、 「僕は好きになった女性しか抱かない」  という発言に、正は信用できそうな男だと思った。なので、 「あたし、住むところがないの。正の家にいさせて?」  そう訊くと、 「家が見つかるまでならいいよ」  言ってくれた。優しい。その日に出会って住まわせてくれるなんて、いい人。  でも、彼には持病があった。心の病。でもがんばって働いて、生活しているらしい。偉い。 「僕、ときどき寂しくなるんだ。そんなとき、一緒にいてほしいな」  あたしみたいなガキと一緒にいたいだなんて大丈夫かなあ、ちなみにあたしは16歳。彼は35歳。  決して正は気の強い男ではないと思う。でも、とても優しい。彼に抱かれたときは、とろけそうになった。前戯を優しくされたので。  いまの時刻は21時頃。 「僕は明日仕事だから寝るよ。克美ちゃんは?」  あたしの名前は工藤克美(くどうかつみ)。あたしは、呼び捨てなのに、正はあたしに対して、ちゃん付け。笑っちゃう。 「あたしはドラマ観る」 「そう。じゃあ、おやすみ」  まるで、同棲している恋人同士のよう。  結局、寝たのは夜中の1時過ぎ。あたしは正にくっついて寝た。彼は太っているからくっついても痛くない。痩せている人は骨がゴツゴツしていて痛い。  正は大きなイビキをかきながら眠っている。今夜はなぜか眠れない。こんなときこそ抱いて欲しいのに。夜中の街に繰り出そうか。よし! 行こう。  玄関の鍵は開けっ放しになるけれど、まあいいや。女一人で寝ているわけじゃないし。 ホットパンツに履き替えて、赤いTシャツを着て正の寝顔を見てからアパートを出た。  この街の繁華街に行き、男の値踏みを始めた。ぽっちゃりしていて背の高い男。できればイケメン。でも、イケメンじゃなくてもいい。セックスが上手ければそれでいい。相手は1人でも2人でもいい。とにかくあたしは快楽を求めていた。気持ちよくなりたい。  自分がいやらしい女の子だということは自覚している。でも、これがあたし。たとえド変態だろうが、スケベな子だろうが自分に嘘をつきたくない。  中には避妊しない男もいた。それもあたしは受け入れた。そのほうがあたしも気持ちいいし。  そんなことをしているうちに、あたしは妊娠したかもしれない。生理がこないから。相手の男は正の可能性が高いが、もしかしたら他の男かもしれない。正の子なら産みたい。でも、他の男の子どもならおろす。  あたしはお金がないので、正の子どもなら出産費用は出してもらうし、他の男なら中絶費用は心当たりのある男の家に行って請求する。セックスはみんな男の家でしているから家は覚えている。  まずは正に話そう。  ちなみに昨夜もナンパされて、知らない男の家に行き、抱かれた。2万円もらった。あたしは淫乱なメス豚と化している。否定はしない。  今は午前3時過ぎ。正の家に歩いて帰っている途中。彼は寝ていると思う。ナンパしてきた男は車で家まで送るよと言ってきたが、断った。正の家が知られたくないから。  家の中に入って、居間に正が起きていた。 「どこ行ってた?」 「ちょっと散歩してきた。寝れないから」 「そうか」  あたしは嘘をついた。人には嘘をつくけど、自分には嘘はつかない主義。 「正」 「うん? どうした? 克美ちゃん」 「あたしね、妊娠したかもしれないの。それで、病院で診てもらうためにお金くれない?」  彼は驚いた表情でこちらを見ていた。 「それはめでたい! 朝、両親に電話しなきゃ」  すっかり自分の子だと思い込んでいる。 「ちょ、ちょっと待って! 正の子だと思うけれど、一応、医者に診てもらってからにしてくれない?」  正の顔から笑顔が消えた。 「え? それってどういうこと? 僕の子じゃなかったら、他の人とも関係をもったということ?」  あたしは俯いて、 「ごめん……、そういうこと」 「マジか……! 最悪! お前って女は!!」  罵倒されたと同時に頬を張られた。 「キャッ!」  あたしはビンタをされたと同時に吹っ飛ばされた。あたしは正を睨めつけた。 「ちょっとー、暴力はやめてよ。あなたがそういう人だとは思わなかった! 普段、優しくて大人しい人がキレると怖いってこのことね」 「うるさい!」  今度はお腹を蹴られた。 「痛っ! お腹はやめて! 赤ちゃんがいるかもしれないんだから」 「さっきの言い分じゃ、僕の子どもじゃないんだろ!」 そう言われてカチンときた。 「だから、わかんないってば!」 「そのわかんない、てのがムカつくんだよ。他の男ともやってるってことだから!」  それについては反論できなかった。  正は、あたしに、 「出て行け」  と言おうとしたらしい。でも、あたしには行くところがないからという理由で言わなかったようだ。優しい。これは、後から聞いた話。だから、 「ごめんなさい」  と謝った。彼は仕方なくだろう、許してくれた。    正はあたしからしたらおじさんだけど、彼の優しさに徐々に惹かれていった。大切にしてくれるし。  産婦人科に行くお金はくれた。一応、1万円。あたしも、言わないだけで抱かせてやった男どもらからの小遣いが数万円残っている。このことは絶対に秘密。バレたら殺される。  今日、これから病院へ行く。今の時刻は9時30分過ぎ。正の仕事は今日は休みらしい。だから、車で送ってもらった。  検査結果は数日でわかるらしい。でも、支払い額を聞いて驚いた。15000円という請求。正と一緒に来ててよかった。受付の女性と話してくれて、後日、払うことになった。  こんなあたしでも生きることには執着はある。生きて性行為を楽しむ。これがあたしの生きる道。あたしはまだガキだけど、野望があっていずれは風俗業を営みたい。そのためにはお金がいる。だから風俗で20歳になったら働いてお金を貯める。誰にも言ってないけれど。  あたしにはこれと言った特技もないし、とりえもない。顔がかわいいわけでもないし。でも、性欲の強さは誰にも負けない。可愛ければ、相手は女の子でもいい。多分、あたしはバイシェクシャル。  お金は裏切らないから、お金は命。両親はろくな人じゃない。親父は暴力を振るうし、母さんは嫌味なことばかり言う。だから、何も言わず家を出た。あいつらはあたしのことを探しているのだろうか。いなくなってせいせいしているのではないのかな。携帯電話も持っていないからあたしと連絡がとれない。それでいい。正に保証人になってもらって新規でスマホを持ちたいな。話してみるか。 「ねえ、正」 「うん? なに?」 「スマホ持ちたいから保証人になってくれない?」 「ああ、いいけどどうやって支払うの?」 「それは……」 「僕は払わないよ。コンビニとかでバイトしたらは?」  あたしはそう言われて腹が立った。 「それくらい助けてよー。あたし未成年なんだから!」  すると、冷たい眼差しで、 「僕と克美ちゃんは付き合ってるわけでもない。君のお腹にいる子どもが僕の子どもだったら払うけど、別の男の子どもならそいつに払ってもらって」 「それは言われなくてもわかってる」 「ならいいけどさ」  それから3日後——。  正のスマホに産婦人科から電話がきたらしい。  これは、彼が仕事から帰宅してから聞いた話。  だから、病院に行くのは明日になる。  天気がよければいいけれど。雨なら傘が必要になる。傘をさすのは面倒。だから雨は嫌い。本当は正が車で送ってくれれば1番いいのだけれど、彼は仕事だからそうもいかない。  翌日、思った通りの雨。しかも、結構強め。彼は9時までに仕事に行くので8時30分には家を出る。待ってもいいから送ってもらおうかな。言ってみるか。 「正、今日雨だから送ってってくれない?」 「ああ、いいぞ」  今は7時過ぎ。 「何時ごろ行く?」  彼は壁の時計を見ながら計算しているようだ。 「8時には行くか」 「早いね」  あたしがそう言うと、 「仕方ないでしょ、仕事にも行かないといけないんだから」  あたしは俯きながら、 「仕事休めばいいのに」 苦笑いを浮かべてそう言った。 正は呆れた顔をしている。 「君は何を言ってる。働くということはそんな甘いものじゃないよ!」 「わかってるって」  あたしはニヤけながら言った。 「いや、わかってない!」  彼は怒鳴るように言った。 「そりゃ、就職したことないから当然じゃん!」  正は黙っている。図星だから言い返せないのかな。 「相変わらず口の減らない子だね」  それを聞いて思わず高笑いした。 「でしょでしょ!」 「いいから用意して」 「はーい」  そこは素直に返事をした。  あたしはシャワーを浴びに着替えを持って浴室に入った。正は覗くような真似はしない。覗いてもいいけれど。見たいと思わないのかな? 真面目な男だから、彼は。  あたしは思う。結婚するなら真面目で誠実な優しい男が良いと思うけれど、トキメキを求めるなら彼では役不足。残念ながら。あたしの場合は恋愛よりもスケベなことがしたいだけ。 どうやら、あたしはそういったことが好き過ぎて頭がおかしいと自分で思う。でも、こういう性で産まれてきたから仕方ない。好きなものは好き。  でも、思うことは1つ。妊娠する可能性があるということ。避妊しないで行為に及ぶ場合もあるから気を付けないといけない。そこだけ注意すればあとは大丈夫。お小遣いももらえるし。若い内しかできない行為だから、思う存分楽しもうと思う。  シャワーを浴びて服を着て居間に行くと、時刻は7時30分くらいになっていた。あまり時間がない。メイクもしないと。 「ちょっと過ぎてもいいでしょ?」  甘えるような声でそう言った。 「うん、少しならいいよ」 「やったー! じゃあ、10分くらい過ぎると思う」 「わかったよ」  あたしが言った通り、10分くらい過ぎて8時12分だった。 「そろそろ行くよ」  正はせかす。 「うん、もう行けるよ」  そう言って彼のアパートをあとにした。  病院に着いて正はあたしをおろし、 「じゃあね、帰りは歩いて帰るんだよ。15000円の支払いがあるから少しでも節約しないとね。子どもだってきっと僕のだから」  正は笑顔で仕事に行った。すっかり自分の子だと思い込んでいる。まだ、わからないのに。 彼は子どもが好きなのかな? それとも、自分の子どもだと思っているから? 正の気持ちがわからない。  検査の結果、妊娠はしていて、どうやら正の子どものよう。あたしはホッとした。支払うお金もそうだけど、1回、関係をもっただけで妊娠したというのは今になって怖いし、不安に感じられる。だから、これからは気を付けようと思う。  あたしは相手は男女問わず本当にセックスが好きで、自分でも、困るくらい性欲が強い。だから望まぬ妊娠なんかするんだろう。聞いた話では、年を取ると性欲も比例して弱くなるらしい。本当かなぁ、あたしの場合、当てはまらないような気がする。雑誌で見たのは「50代からの性生活」という記事を見た。確かに50代でも十分いけそう。あたしなら60代でも出来そう。  今回は望まぬ妊娠じゃなくてよかった。正ならきっとあたしを幸せにしてくれるだろう。そう願いつつ帰りの歩道を歩いていた。  彼の反応が楽しみ。きっと、喜んでくれるだろう。初めての結婚に初めての子どもらしいから。  正からメールがきた。 <今日、帰り遅くなる>  どうしたのかな? 残業かな? あたしもウキウキしている。そして、あたしは気付いた。正のことを愛しているということを。  彼が帰宅したのはどうやら午前2時頃だったらしい。後から聞いた話しで、その時間帯、あたしは寝落ちていたようだ。  朝七時頃に目覚めて、彼はソファで寝ていた。酒臭い。相当飲んだのかな? 今日は金曜日だから正は仕事のはずなのにまだ寝ている。  彼を起こそうと声をかけた。 「正! 起きて! 仕事でしょ」  全く起きる気配がない。なので、叩いてみた。 「正! 起きて!」  結構力を入れて叩いた。すると、 「うるせー! ばばあ! 大人しくしてろ!」  え? どういうこと? ばばあ? 夢でもみているのかな。彼の様子を窺っていると、 「ぶっ殺すぞ! てめえ」  正がそんなことを言うなんて。珍しい。いつも優しい口調だけにビビった。すると、ガバッと飛び起きた。 「はー……。起きた。嫌な夢を見てた」 「正、大丈夫?」 「ああ、旧友の夢をみていた」 「きゅうゆう?」 「ああ、昔の友達のことさ。今でこそ付き合いはなくなったけど仲がよかった女友達なんだ」  冷や汗をかいてるようで額から汗が流れている。 「殺されそうになった……」  昔、何かあったのかな? 「夢の中だけどね」 「何があったの?」 「昔好きだった女の取り合い。僕のことは好きじゃない、と言われてカッとなったところまでは覚えてる」  らしくない、と思った。そういう一面もあるんだ。怒らせないように気をつけなきゃ。 「仕事の支度しないの?」 「ああ、するよ」  彼は立ち上がりあたしは話し掛けようとした。すると、 「そういえば、子どもは僕の子?」  今、言おうと思っていたところだった。 「そう、正の子よ!」  彼は満面の笑みで、 「そっか! よかった」  と安心した様子。 「産婦人科の支払い、してくれるんでしょ?」  正は大きく頷きながら、 「もちろんだよ!」  と息巻いた。 「僕にも家族ができる! もっとがんばるぞ!」  あたしは嬉しくなって笑みがこぼれた。自分も幸せになれるかもしれない。幸福には縁遠いと思っていたけれど、そうでもなさそう。久しぶりに幸せな気分に浸れそう。  あたしも正と同様にがんばろう! 思ったけれど、幸せって自分で掴むものでは? と思った。出逢った男性が正でよかった。いい人に巡り合えた。少しでも長く幸せな時間が過ごせるようにがんばるぞ!                            (終)
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