春花抄

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 その後、化狸や鬼、様々な住民と挨拶を済ませ、ワダツミ達の元へ歩みを進める。ここに住む妖達は大概がひょうきん者である。外界と違い争いも少ない。所謂時間の流れが違う場所。なのだ。  帰り道の途中、行きでは気付かなかったが、道端に白い躑躅が斜面に広がるように咲いていた。足を止め「あの藪で隠れていたか」と零す。うっすらと黄色を帯びた花びらは、昨日降った雨で輝くようだった。躑躅、とはよくいったもので、まさにもう一人、足を止めて花を眺めている者がいた。屈んで花を見ていたその女性はこちらを見て「あら、方代。挨拶回りかいな」首を少し傾けながらうっすら笑ったように見えた。 「よぉ、菊。毎度お前ら兄妹に飯の用意させちまって悪いな」 「別に、うちらは外に出んし、アンタに色々頼み事聞いてもらう事も多いしな。お互い様や...それに支度はほぼ源一郎兄さんやし、うちらはちょっと手伝うだけ」化狐の長女、菊はそう言うと前かがみになって立ち上がる。浅葱色の着物に木賊色の羽織を着て、長い髪は下の方で結っている。 「なるほど、そのちょっとの手伝いがあの餅か...」 「餅?なんの話をしとるん」 「お前、一個だけおにぎり握っただろ」 「...なんで知ってるんや、気持ち悪いわぁ」  暴言に、というよりは半ば本当に気持ち悪がっている菊に流石の方代も少しカチンときたのか「おいおい、絶望的に口が悪いな...お前のおにぎりがこねくり回されすぎて餅になってたんだよ!後、前々から気になってたが、その似非京都弁やめた方がいいぜ」 「はぁ?餅に?そないな訳ないやろ。...それに話し方はしょうがないやろ、うちと梅は小さい頃に色んな所を転々としとったから色んな方言がごちゃ混ぜになっとるんよ」  そこから二人でワダツミ達の元へ向かい、皆におにぎりの事を笑われ、菊は「堪忍してやぁ」と赤面しながら帰って行った。
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