春花抄

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 今日は一日海雲がおり、仲の良い住職に今度は古いトランプを貰って来たようで、夜通しババ抜きをした。そのトランプは大変時代が付いており、折れてこそいないが、柄が擦れて多少剥がれていた。海雲も渡された際に「随分思い出がありそうですが...」と渋ったが「こういう物は使ってもらった方がいい、ボロだがまだ遊べる。まさか飾っておく訳にもいかんしな」と住職が言うのでこれも供養だと思い、ありがたく貰ってきた。アキラが海雲からカードを引く時、体ごとそちらを見るためワダツミからアキラの手札が丸見えになっており、最初は少し意地悪をしていたのだが、方代から「大人気ねぇなぁ」と言われて正々堂々の戦いになるもアキラは顔に出るタイプのようで、そこからも散々負けていたが、それに気付いたのか後半からは手札を引かれる際、空いた手で目を隠して見ないという戦法を取り始めると彼の勝率は一気に上がった。    連戦を続けるもアキラもとうとう眠くなったようで、寝っ転がりながら勝負していると待ち時間の間に眠ってしまっていた。  その後、ワダツミ、海雲、方代は三人で縁側に腰かけ、少し遠くにある桜の木を眺めて酒を飲んでいた。夜桜の花見酒。足元は桜の花びらで斑に地面が隠れている。先日の雨で花が散ったせいか、落ちた花の甘い匂いが巻き立っていた。 「桜というのはやはりいいものですね」  海雲は遠目に桜の木を眺めながら呟いた。 「まぁ、そうだな」 「春はやはり桜ですね、他の花もいいですが...ここに桜の木があってよかった」 「なに、木はなくても桜は見られるさ」 「え?それはどういう...」 「我が国は草も桜を咲きにけり、ってな」  海雲は少し考えて「...ああ、なるほど、サクラソウですか」と笑った。 「結局は桜が好きという話だろう」 「ははっ、違ぇねぇ。いつの時代も変わらねぇな」  それから暫く、特に何を話すわけでもなく月と桜を肴に飲んでいた。森のざわめきと共に海雲が口を開く。 「アキラ殿の事なのですが...」
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