春花抄

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「確かに、長くここに居てはアイツのためにもならんのかもな」 「やはり積極的に帰す方法を探すべきです。しかし、早すぎてもいけないかもしれません...アキラ殿を最初に返そうとしても帰れなかったのは...それを望んでいないから...という事も...」 「にしても、あれくらい小さい童が親と会いたくないだなんてあり得るのか」 「....まぁ、理由ならいくらでもあんだろ」  そう言った方代だったが。特別理由を挙げる事はなかった。沈黙から逃げるようにポケットから煙草を取り出し、火を点ける。二息目を吸い込む瞬間に、煙草の先からジュッという音がした。ん?と目を寄せて煙草の先を見ると、横から腕が伸びてきており、人差し指と親指が火種をギュッと潰していた。方代は驚いて「あ!?何すんだよ」とワダツミを見る。ワダツミは少し睨んで「アキラの傍で吸うな」と言って手を離した。 「んだよ、こっちでもケンエンされんのかよ...ん?でもお前も吸ってたよな...?」  すると海雲が「それが少し前にですね、住職から煙草の煙が体に悪いと聞いて、それをワダツミ殿に言ったら、もう次の日から吸ってないんですよ」と肩を小刻みに震わせて笑う。 「馬鹿みたいに吸ってたのに、そんなすっぱりと簡単にやめられるもんかねぇ」  方代はニヤニヤしながら煙草をしまう。今にも吹き出しそうでカタカタと震えていると、こめかみに拳骨が食い込んだ。「はぁあ!?いってぇな!なんだよ」 「顔がうるさい」 「どんな理由だよ...正直に恥ずかしいって言えや」  再び拳が頭上に振りかざされると「ああ、もうお二人とも、アキラ殿が起きますから...」と海雲が止めに入る。そしてその後も五更まで三人は飲み続けた。
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