ごめん、ゴン太、約束守れそうにないよ。

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そして、僕も年頃になり、 好きな人が出来た。 ゴン太もその人を気に入ってくれたみたいで その人の膝の上のでゴロゴロと 喉を鳴らして甘えた。 高校の時、女友達を連れて来た時は その女の子を「シャー」と威嚇したが 今回は、そんな事がなかった。 その後、分かったのだが その子は、僕と、他の子と 二股をかけていたのだった。 ゴン太は、それを見事に見抜いて いたようだった。 今度の彼女は、ゴン太の お目にかなったようで、 彼女の膝の上で、ゴン太は 安心してお昼寝した。 やがて、僕たちは結婚した。 彼女が、我が家に引っ越してきたその日 ゴン太との別れが突然やってきた。 夜、ゴン太が夕食を食べずに 少し元気がないなと思っていたら ゴン太の息が荒くなって来た。 20年も僕を見守ってくれたのだから いつかはこの日が来る事を覚悟はしていたが 僕は気が動転して「ゴン太死なないで」 と、叫んで、ゴン太を抱きしめた。 すると、心の中で、ゴン太の声がした。 正直、いままで、ゴン太が僕に 話しかけてきた言葉は、僕が、ゴン太に こう言ってほしいという気持ちで 想像したものが多かったが、今回は違った。 僕が何も考えていないのに 心の中で、ゴン太の声がした 「もう、僕がいなくても大丈夫だよね。 ゴン太は幸せだったよ そろそろ、お母さんの元に行くね。 僕を、お母さんの好きだった、 金木犀の木の下に埋めてくれるかな。 それから、もう一つ約束だよ。 僕がいなくなっても泣かないでね。 今度、生まれてきた時も、 また、この家に必ず来るから 前と同じように」 最後の力を振り絞って、ゴン太は 顔をあげ、僕と奥さんを見ると 「ニャーン」と優しく鳴いて 息を引き取った。 ゴン太の顔は、優しく笑っているように 見えた。 僕は「ゴン太、泣かないよ、でも、 勝手に目から涙が溢れてきちゃうんだよ」 ゴン太の顔は、僕と奥さんの涙で 濡れていた。 奥さんは「ゴンちゃん、金木犀の木の下に 埋めてあげようね」と言った。 奥さんにも、ゴン太の最後の言葉が 聞こえていたようだった。 その夜、僕は少しづつ冷たくなる ゴン太を一晩中、抱きしめた。
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