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朝日
「このひと、だあれ?」
起きてしまった妹の手を握り、不思議そうに立っていた結衣が言った。
「まあ、可愛い。あなたたちの、おばあちゃんよ。さあ、おいで」
二人は顔を見合わせたが、促されるように巻き付いた。お母さんと娘たちが合わさったギュッは、何百増しにも感じた。
台所の窓は、とっくに白んでいる。日の出まで、もう10分も無いかもしれない。私はお母さんと、時間が許す限りお喋りした。お母さんは幽世から二時にここへ来ていたのに、私たちがいなくて心配したらしい。もっと早く気付けばよかった。話したいことは山ほどあったけど、今は幸せに暮らしていることだけを伝えた。
不意に視界が、朧げなイメージに移ろい明るくなった。私の吐く白い息の向こうに、キッチン台に立つ若いお母さんと、その横で嬉しそうに見上げる小学二年生の私が見えた。
そうだ。二十四年前、私が学校から帰宅したあの時、お母さんに「ただいま」を言おうと思って、台所へ行ったんだった。
「あかりちゃん、おかえり。今日は学校どうだった?」
「うん、楽しかったよ! スパゲッティの匂いだね」
「そうよ。夕飯はミートスパゲティ!」
「やったぁ」
三人を温めるように射し込む朝日は、すっかり部屋を明るくしていた。
了
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