ギュッ

1/1

21人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

ギュッ

 身寄りの無かった私は施設に入り、お母さんの話題に触れることは一度も無かった。あれから二十四年。大人になった私は今、六歳と三歳の娘に恵まれている。二人の為なら、どんな辛いことも乗り越えられる。  それでも気持ちが下がってしまう日は、五倍増しで子供たちに癒してもらう。どうやって五倍増しにするのか? 簡単なこと。  死んだフリをする。  あの子たちの、怖くて不安で、私を求める気持ちが何倍にも膨らんで、生きていると分かった時に五倍増しの愛情で抱き締めてくれる。でも、可哀そうだから、本当に辛い時だけにしている。  私が幼かった頃、お母さんがどうして死んだフリをしていたのか、ようやく分かった。きっと、辛かったんだ。  仕事と、育児と、家事と、忙しい毎日を送っている私は、ニュースや時事などの情報に触れる機会が少ない。それでも十二月に入ってから、新聞の一面でやたらと取り上げられている記事の大きなタイトルは、厭でも目に留まった。 『どうなる! 超国際会議G5』とか、『波乱の選抜! 神様陣営の代表が決まる!』とか、『閻魔大王様は降臨するのか?』などである。  実は、神様と閻魔様との会談により、あの世とこの世を繋ぐ霊道を解禁するというのだ。  世の中の流れに(うと)い私には、どうしてそういうことになってしまっているのか分からないけど、神様と閻魔様だなんて。本当の話なの?   益々、時代に置いてけぼりを食った気になった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加