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母の恩人
夕飯を食べていると、スマホの着信振動がテーブルを伝って私を呼んだ。
「誰だろう?」
知らない番号だった。当選に関する連絡かもしれないと思いスマホを手に取った。
「はい」
「もしもし。あ、あの。杉並というものですが、松浦亜香里さんの番号でよろしかったでしょうか?」
始めて聞く声だった。私の旧姓を知っている? 全く心当たりがない。
「……そうですが」
「突然つかぬことをお伺いしますが、亜香里さんのお母さまは、松浦友恵さんですか?」
お母さんの知り会い? 二十四年前にお母さんが亡くなっていることを、この人は知っているのだろうか。そんな考えが浮かんだが、そうだと答えた。
「え、えぇ。そうですけど」
「あぁ、良かった。由紀さん、あ、いや、友恵さんに一人娘がいると分かって。ご自身の本当の名前も分かって。全て……思い出し……ぅぅ」
泣いてる? 初対面の私に、電話越しで泣いてる。最後は嗚咽に詰まり、言葉にならず聞き取れなかった。どういうことだろう。この人に何があったのだろうか。
「あの……大丈夫ですか?」
「す、すみません。つい胸がいっぱいになってしまい、突然電話して、急に泣かれて戸惑いますよね。本当にすみません」
まだ鼻を啜ってはいるが、スマホの向こう側の人は幾分落ち着きを取り戻した。
「それで、私の母のことで何か、ご用でしょうか?」
「はい、このお電話は、あなたのお母さまに会ってもらえないかというお願いでした」
私は霊道解禁に当選している。私が誰にも話していないその情報をどこかから入手して、そのことを言っているのだろうか。だとするとこの人は一体何者? それとも、たまたま同じ名前で、誰かと間違えているのだろうか。
「あの……私の母はずっと前に亡くなっています。人違いではありませんか」
「いいえ、間違いありません。二十四年前、亜香里さんが八歳の時に、あなたのお母さまは夕飯の準備中に脳卒中で倒れ記憶喪失になったんです。パニックとなり外へ飛び出し、途方に暮れていたところへ私が声を掛けたの。何も情報がなかったから、色々ありましたが私が引き取ることにしたのです」
実際は数秒だったはずだが、十分くらい無言で固まっていた錯覚に襲われた。
──お母さんが、生きてる。
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