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二十四年ぶりの対面
私が家に戻ったあの時、確かにお母さんの姿は無かった。幼かった私は、きっと天国へ行ったんだと、何も疑問を持たずそう思った。
思い返せば、人が忽然と消えるなんておかしな話だ。天国に行ったんだと思い込んだまま、時間が経ち、記憶も薄れ、それが真実となり疑うこともなかった。
死んでなかったんだ。戻ってこなかったのも、記憶喪失になって、家が、自分が分からなくなっていたんだ。
私は今、教えてもらった病院へ向かって車を走らせている。生きているお母さんに会える。それ以外のことは考えられなかった。
赤信号の交差点で止まる。信号機の下にぶら下がる『藤波市民病院100m左折』という看板が目に留まった。
病院に到着し、駐車場に停め車を降りると、次女を抱き抱えた。歩く長女が着いてこられるように、馳せる気持ちを抑えながら足を進ませた。
三〇二号室。
コン、コン。
「はい」
病室の扉を開けたのは、おっとりとした特徴のある声で、電話をしてきた人物だとすぐに分かった。想像していたよりも若かった。それでも五十代くらいだろうか。見た目も、どの所作を取って見ても、物腰の柔らかい女性だった。
「ようこそお越しくださいました。私が杉並良子です。どうぞ、こちらです」
そう言って、彼女はベッドを仕切るカーテンを半分開けた。その人物は、布団を掛け眠っていた。カーテンで顔は見えないが、お母さんはきっと、歳をとっているだろう。大人になった私のことを、分かるだろうか。お母さんの寝顔を見ようと、恐る恐るベッドの脇へ移動した。顔に、白い布が掛けてあった。
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