お母さん

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お母さん

 私の目は閉じていないのに、まるで瞼の裏に映し出されているかのように、瞳の中で二十四年前の光景がフラッシュバックした。 「亜香里さん。ごめんなさい。あなたがここへくる間に、友恵さんは……ごめんなさい」  杉並さんは、泣き出してしまった。どうして謝るの。この人が悪いんじゃない。この人はきっと、誰とも分からないお母さんを無償で引き取り、家族のように面倒を見てくれた。きっとそうだということが、言われなくても伝わってきた。杉並さんは、必死に息継ぎを入れながらも話してくれた。 「今日の夕方のことですが、友恵さんは、昏睡状態になってから全ての記憶を取り戻したの。そして、息を引き取るまで、(うつ)ろながらあなたのことを話していたわ。だから、生きているうちに、あなたに会わせたかった」  そう言って、彼女は、わんわんと声を上げ泣き崩れた。  あの日、私の前から忽然と消え二度と会えないと思っていたお母さんが、目の前にいる。この日の晩は、お母さんと一緒にいたいとお願いしたら、杉並さんからも、是非そうして欲しいと懇願された。
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