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わたしとクスノキさん
静まり返った室内で、時計の音だけがやけに大きく感じる。
年に数回訪れる学力テスト。夏休み前の最大行事である期末テストの最終日、わたしは静かにうたた寝していた。
関係ない、こんなもの。
関係ない、わたしには。
中二病を患っているわけではなく、本気でわたしは思っている。
高校三年の大事なこの時期に、だ。
「みのり~、また寝てたでしょ」
テスト終了のチャイムと共に、笑みを浮かべながらやってきたのは友人の夏菜。
「だって、わたしには関係ないもん」
「まーた、そんなこと言って! 噂のクスノキさんにフラれたらどうするつもりなの?」
「フラれないもん」
「いいなー、将来を誓った相手がいる人はさ! 仕事の心配もないもんね~」
このこの! と肩を叩いてじゃれてくる。
「そんなんじゃないって~! やめてよ、夏菜」
「このこの~!」
あははっと笑い合いながらじゃれる。
本当にクスノキさんとは何もないのに。と思いながら。
ゆっくり過ごす生活も悪くないと感じさせる。
「クスノキさん」
その日の放課後、学校帰りのセーラー服のままやってきたのは古びた小さい本屋。
クスノキさんとの待ち合わせはいつもここだ。
彼は本が好きらしく、いつもわたしより早く来ては何やら文庫本を手に静かに視線を落としている。
クスノキさんが持つ文庫本、小さく感じてなんだか可愛く見えて自然と笑みが漏れる。
「……学校は楽しかったか」
わたしの笑みをそう取ったか。
「いえ、いつも通りでした! クスノキさんこそ、今日はどちらに行かれてたんです?」
「……仕事だ」
いつも通り、ということだろうか。
そう捉えた瞬間、パタンと音を立てて本が閉じられた。
「……しばらく会えなくなる。今日の仕事もなしだ」
「え……え? ど、どういうことですか」
「最優先の仕事が入った」
「仕事……」
こんなこと今までなかった。
何か問題があったのだろうか。
いつもここで会って、たまに仕事を手伝ったりしていたのに。それを察したらしいクスノキさん。
「問題が発生した」
「問題? それ、それじゃあ! わたしだって……!」
クスノキさんの何を考えているかわからない視線とかち合う。
有無を言わさぬような、そんな冷たい瞳。
「すまない」
「わ、わたしは! 貴方のためなら――!」
以降を告げる前にクスノキさんは首をふった。
「……また連絡する」
落胆するわたしを置き去りにしたまたクスノキさんは出ていった。
それっきり、本当に会えなくなってしまった。
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