「好意の意味」※ナカガワラ視点

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 クスノキの女なのか?  ぐるぐると頭を駆け回る可能性に、俺は苛立っていた。  だが、他人に興味が微塵もない俺には、情報網がない。繋がりも無ければ、知り合いもすぐに死んでしまう。 「誰かを頼るなど、ありえない。この、俺が! だが、どうしても気になる」 「で、アーシのところに来たってワケ?」  古いレコードがびっしりと周囲に飾ってある、年配のような趣味をしているこのガングロギャル。 「情報に詳しい奴は、お前しか知らない」 「アーシだって、情報屋じゃないから、知らないワヨ」 「嘘つけ!」  殺すぞ、と言わんばかりに拳銃を突きつける。  目の前のギャル……シブヤが、ペディキュアしつつ鋭い視線をぶつける。 「はーあ、早漏もたいがいにしなさいヨ。ちょっと近づけば殺す、気にくわなければ殺すって……あんたの周りって死体ばっかりじゃない? なに、そういう性癖なワケ?」 「……性癖が異常なのは、クスノキだろうが」 「クスノキ?」  シブヤは予想外の人物の話題だったのか、先ほどの鋭さが消えた。  楽しそうに「珍しい名前じゃナイ?」と向き直る。足の爪も半端なままだ。 「親しいのか?」 「ううん、ただのファン。かっこいいジャンー、理想のボディよ」 「理想? お前、あんな筋肉ムキムキが好みなのか?」 「女はみんな、ああいうのが好きナノ」  うっとりと想像している顔になる。完全に女の顔。 「はっ! そんなことない。俺はクスノキよりモテる」 「それは、顔でショ」  顔……まあ、それもあるが。俺だって、脱げば筋肉くらい……。 「……お前の好みの話はいい。俺が興味あるのは、クスノキの性癖についてだ」 「アーシも気になる! クスノキ、どんな性癖なの!?」  前のめりも前のめりで、迫る勢いだった。それほど好みらしい。 「あいつ……女子高生と歩いていた」  俺は期待していた。  あの筋肉堅物無表情がまさかの女子高生。あんな顔しておいて、犯罪ラインの性なんて。  だが、シブヤの反応は違った。 「なんだ、みのりちゃんね」 「……みのり? あの女子高生のことか」 「そーよ、地味っぽい感じの子デショ。最近クスノキと一緒にいるのヨ」 「クスノキの女か? てっきりそういう性癖だと……」 「オンナ……うーん、女ってわけではないと思うんだヨネ、雰囲気的に」 「じゃあ、なんなんだ」  俺の言葉にシブヤは瞬きを数回した後、口角をゆっくりと上げる。 「なぁに? 気になるんだ? あの、冷血王子サマが」 「センスのないあだ名をつけるな」 「あら、本当デショ。命を吐き捨てる冷たい血しか通ってないじゃない? 良いのは外見だけ。みーんな言ってるシ」 「羽虫の言うことなんでどうでもいい。はやく教えろよ」  俺はニタニタ笑うシブヤに徐々に腹が立ってきていた。  殺してしまいたい。  少ない理性が必死に訴える「情報が聞けなくなるぞ、仕事も減るぞ」と。 「良いワヨ。ただし、報酬は弾んで」 「……どうせ持て余してる。いくらでもくれてやろう」  スマホを取り出し、素早く自分の口座からシブヤの口座へ振り込む。 「えー、いくらくれるのカナ……」  シブヤは同じようにスマホを覗き込むと、ぎょっと真っ黒な目を見開いた。 「え! え!! ま、マジ!?!? あんた、神!? 訂正するわ、外見と貯金は最高じゃナイ!!!」  目を輝かせてスマホにキスまでしている。 「金なんか、そんなに良いものか?」 「みーんな大好き、お金! アーシなんてお金積まれたらいつでも誰でも何でもウェルカム!」 「頭も尻も軽い女だな……さて、その“みのりちゃん”について俺とお話しようじゃないか」 「モチロン!! 知ってる情報は何でも言うヨ!」  これが金の力か……。
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