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「一般人なのか、みのりちゃんってのは」
「ソダヨ! なーんか知らんけど、半年前くらいからクスノキと一緒にいる!」
半年前に何があったんだ?
一般人、か。
それなら納得した。どことなく暴力的な世界が似合わずに浮いていた理由も、俺を知らずにいてクスノキが庇った理由も。
「なるほどな」
「一般人ってだけあって、みのりちゃんをクスノキはかーなり守ってるから、情報を探るのは難しいヨ。名字もわからないシ」
「……他には?」
「あ、通ってる高校は◯◯高校だヨ、あの服は」
脳内にメモする。
「他は?」
「住所も知ってるヨ!」
さらさらっと話すのも、脳内メモ。
「それで?」
「連絡先は知らないケド、よく行く場所なら知ってるヨ」
どうやらそこは喫茶店のようだった。
「なんでそこまで知ってんだ?」
「だってだって、むかつくジャーン? あのクスノキと一緒にいられるなんて羨ましいのヨ!!」
「嫉妬は醜いぞ。それに、クスノキに近づきたかったら、そっちを調べればいいだろ」
「クスノキは人の気配に敏感だし……どうしたって無理なワケ!」
「情報も滅多に出回らないしな、あの男。どんな生活してるのかもわからねぇ」
「……それはアンタもでショ」
「……これだけ情報があれば使えるな」
よし、と店を出る。
背後でシブヤがなんとか言っているが構わない。
あとは俺がどうにかする番だ。
「みのりちゃん、ねぇ」
深夜、双眼鏡越しに見えるみのりちゃんの部屋の明かりが消えたと同時に、俺の一日も終わった。
「……」
収穫は少なくない。
住所、よく行く喫茶店、郵便物から特定した本名に電話番号。
「……本当に一般人っぽそうだな。女子高生だし」
帰宅後は家から出ない辺り、あんまり交遊関係もなさそうだ。
覗いても誰かと連絡を取り合うより、ゲームや宿題、動画などで時間を消費しているだけに思える。
だが、ひとつだけわからない点があった。
「……」
あのとき確かに感じたみのりちゃんへの感情が、今はない。
「……なんとも思わない」
あんなに衝撃を受け、かわいいと口走ってしまうほどの感情が今はない。
原因は何だ? 一過性のものなのか?
ふと手にした双眼鏡に視線を移す。
「これ、越しだからか?」
翌朝もみのりちゃんの尾行をした。
なるべく肉眼での尾行によって、得たものがあった。
「~♪」
微かに彼女の声が聞こえるのだ。
これは内蔵にくるものがあった。
「なるほど、声か」
盗聴器を用意しては、仕込んだ。
「ふむふむ、これは確かにみのりちゃんを感じられる」
肉眼によって彼女を視界で得て、耳で声を聞く。
そんなことを毎日続けていれば、マンネリ化もしてくる。
「何かが物足りない。なんだ?」
みのりちゃんの後を追って、声を流し聞くだけで初めは満足していた。
発想も天才的だし、こうしていれば原因を探れると考えていたが一向に掴めないまま。
「何がいけないんだ? 重要なことを言っていただろうか」
俺が聞き漏らしただけなのか、あるいは。
「……そうか、撮りためておけばいい。これまでは流していた為に、不確かなものが増えていた。それならば!」
気づいた頃には、自室が大変な有り様になっていた。
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