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どうしてこうなった。
盗撮した写真に、盗聴録音したデータの山。
「俺は……これ……ストーカーじゃないか!」
軽蔑していたはずなのに。
「どうしてだ? どうしてこうなった!!」
捨てようにも捨てられず。処分も出来ない。出来ることといえば優しく写真に触れるくらい。
「……魔女か? この女」
俺に何かしたのか?
何ができる? 同業者ならともかく、一般人のか弱い女子高生が。この俺に? 否。出来るはずがない。
「……なのに、おかしい。これは病気か?」
可能性をぐるぐると考え、やがて瞳を見開いた。
「まさか……こ、これが」
全身が震える。
恐ろしい。なんてことだ。よりにもよってこの俺が……?
馬鹿共のように……?
「こ、これが…………愛!?」
愛。それは知っている。
友愛、家族愛、恋愛。様々なくだらない愛がこの世にはある。そしてそれは、知能の低い人間が感情を左右されるもの。
「この俺が? あんな小娘に?」
ありえない。
が、そう考えれば胸の動悸にも説明がついた。全て納得がいく。みのりちゃんを愛している。
「なるほど、これがそうか……ふふふ、ならば」
やることはひとつ。
即行動するため役所に走った。
欲しいのは紙切れ一枚。
最近観た映画の新作情報で、あまり親しくない男女が結婚を境に初々しい恋愛を始める物語を目にした。
即日、俺は婚姻届を提出した。
ここまでしたにも関わらず、みのりちゃんとの距離は縮まらない。
眺めては盗撮盗聴が増えていくだけ。
「っくそ。どうにかしないと」
俺と彼女は夫婦なのに、この距離感はなんだ?
彼女の好きなものが俺の好きなものになっていき、好きなものだけが増えていく。
ドラマと違い、みのりちゃんとの間に恋愛の気配はない。
彼女に話しかけてみようとするも、緊張からか挙動不審になり、言葉も出ず、素通りするのも早数百回目。
どうしたら彼女と親しくなれるのか。
「仕方ねぇ……やるか、喫茶店」
適当に従業員を募集して、適当な資金のもと開業した喫茶店。
みのりちゃんの通る場所に、彼女好みを敷き詰めた店舗。
「さあ、はやく俺のもとに……!!」
頼むよ神様、と信仰も欠片もないが手を合わせて祈ってみる。
そうしてやっと掴んだこの奇跡。
クスノキ経由だろうがなんだろうが、手放すつもりも無駄にするつもりも無かった。
俺とみのりちゃんの恋愛は始まったばかり!
これから幸せな未来にふたりで向かうのだ、それなりの手順を踏まねばなるまい。
全身全霊でモノにする戦いが頭のなかで緻密に計算されている。
彼女は俺のだ。
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