ホワイトニング

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 舞台初日を明日に控え、役に入り込んでいた戸坂雄馬の意識は台本の上から洗剤のCMの映像に飛んだ。 「こんなに白くなった!」 「わあ、眩しい!」  陽射しを受けブルーに発光するシーツが、顔を上げたときちょうどテレビの画面をいっぱいに塞ぎ、ありきたりな煽り文句の後、笑顔のアップが映し出された。  六階の窓からは満月が見えているのに、50V型液晶の中は真昼の明るさだ。    白いものを自分色に染める。  何色にでも染められる白。  ふと考える。  何かを白く染めることは可能だろうか。  考えつくのはペンキのようなマットな白で塗りつぶす。  クリーニング等で汚れを完璧に落として白に戻す。 「もともと新品の布にさらに蛍光増白剤使って白く染めてるから」と、後輩のセリフを思い出す。  それを分かって求める購買心理。 「テレビの中に真実なんて誰も求めてないんっすよ」  その見解を戸坂は身をもって知った。
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