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その少年は、相変わらず関心を持たれてはいなかった。しかし、自由に行動し始めた少年に隙は多く、魔法が使えることだけが大人達に露呈する。
そのことで、少年が褒められることは無かった。ただ彼をこの世に生み出した者達が、自らの血統について自画自賛を繰り返すばかりだった。この頃には、少年は何を言われても心が動かなくなっていた。少年は、知識や魔力を増やすことだけに注力し、他の様々なことに無関心を貫いた。
一人で買い物をしても不審に思われなくなった年齢の頃、少年は小屋に溜め込んでいた様々なものを売り始めた。彼はお使いのふりをしては物を売り、少しずつ使える金を貯めていく。
魔法の才能を開花させた少年は、自らの気配を消す術を身に付けた。彼は、そうすることで様々な場所へ入り込み、時にその年齢に見合わぬ高度な授業を受けた。隠れて学ぶ少年の吸収力は優れていた。次々に知識を得ては使いこなし、大人達顔負けの力を手に入れた。
賢い少年は、その知性から自分が異質な存在であることを理解していた。この為、枯れ葉同年代の子供を観察しては、年相応の考えや振る舞いを模倣した。
その演技に誰も気付くことは無かった。少年は、腹の中に黒い物を飼い慣らしながら、普通の子供を演じ続けた。
やがて、彼の弟が酷い扱いを受ける様になった頃、少年は良い兄を演じることを決めた。彼は、近くに居る兄弟を観察しては、その距離感や会話のやり方を学んだ。少年の人との付き合いは、常に他者の観察を経てから行われた。
大人達から暴言を沢山浴びせ掛けられた弟は、中々兄に懐くことも無かった。この為、少年は適当に見繕った果物を与えては無害な人間であることを印象付けた。
幼い弟は、その演技に騙された。少年は、弟が親からは与えられ無かった物を、次々と用意した。弟が何を必要としていたかは、少年が良く分かっていた。感情の殆どない少年ではあったが、弟が何を欲しているかだけは分かっていた。それは全て、彼が幼き頃から欲しても決して与えられはしなかったものだった。
距離を保ちながら、少年は弟の欲するものを与え続けた。すると、弟は少年の思った通りの人形になった。自ら考えることはせず、兄に頼るだけの人形に。
だが、少年はその遊びも飽き始めた。余りにも離れようとしない弟が煩わしくなっていった。そうして、少年は弟と離れる道を選んだ。
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