prologue

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「うぎゃああああああああああああああああああ‼」  血のように染まった空、真っ黒になった大地。そこに人なるざるモノの王、魔王サタンの大絶叫が、耳をつんざかんばかりに木霊した。  今、ようやく、ようやく神と人類が率いる正義の軍勢と、悪魔が率いる悪の軍勢に終止符が打たれた瞬間だった。  どす黒い、邪悪な影は見る見るうちに縮小し、空間にできた亀裂に吸い込まれていく。  「おのれぇ、おのれ人間どもぉぉぉ、おのれ神ぃぃぃ、  おのれパウロぉぉぉ‼」  サタンの目の前にはサタンと同じ悪魔であろう、魔界の騎士が剣を構えて息を切らしていた。  「この裏切り者がぁぁぁ! 許さん、許さん、許さぬぞぉぉぉ‼」  サタンの憤怒の叫びが更に木霊す。  「必ずだ、必ず蘇り、この世界に舞い戻ってやるぞぉぉぉ‼ ふはははははは、あっはははははは‼」  絶叫は哄笑、否、狂笑へと変わり、それに伴い、サタンは小さくなっていく。そして、キン、という金属音とともにーー  サタンは「封印された」。 サタンが封じられた空間から一本の禍々しい剣が出現し、くるくると音を立てて回ると、勢い良く、地面に突き刺さった。  それを合図に、血塗られた空に光が差す。次々とその光は大きくなり、空は青を取り戻していく。そして、大地は木々を取り戻し、草花を咲かせていく。  「やっ…た…」  魔界の騎士、パウロが呟いた。そして、  「やったぞぉぉぉ‼」  パウロが歓喜の声を上げた。  それを呼び声に、次々と後方から歓喜の声が木霊していく。そして、その背後から次々と軍隊が、兵士たちが顔を出し、同じく歓喜の雄たけびを上げる。  そしてーー  「パウロー‼」  響き渡る歓声の中、遠くから女性の声が響いた。それは彼、パウロにとって愛しい女性の声だった。  「パウロー! パウロー‼」  女性の声は人ごみをかき分け、近付いていく。そして、遂に、その姿を現した。  青い瞳に栗色のポニーテール。身にまとうのは女医の制服。  「ヘレナ‼」  パウロが叫んだ。叫ぶや否や、身にまとっていた甲冑は白いシャツ、黒いズボンへと変容し、そこからスポーツ刈りの端正な顔立ちが顔を出す。そして。  「パウロー‼」  「ヘレナー‼」  二人は全力で駆け寄り、力の限り、思いきり抱き締めあった。 「パウロ、パウロー‼」  「ヘレナ! ヘレナー‼」  二人は抱きしめあいながらお互いの名を呼び合った。  「やった、やったよ! 遂に、遂にサタンを倒したんだ‼」  「ええ、ええ‼」  「これで君とずっと一緒にいられる…ずっと、ずっと!」  「ええ、ええ‼」  「ヘレナ…」  ここで、二人は向き合った。  「何?」  「愛している」  その言葉に、彼女、ヘレナは顔を真っ赤にした。しかし、すぐに、その表情は涙をにじませた、しかし、優しいものへと変わる。  「私も…私もよ。パウロ…」  「ヘレナ…」  「パウロ…」  かくして。神と人類が率いる悪魔との戦いは幕を閉じた。  物語はこの十五年後から始まる。
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