適温な関係

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 幻ばかり追いかけていたに過ぎなかった、彼から滲むその燻ったまで眩しい。  「僕でいいんですか?」  事後の微睡のなか、寝言混じりにポツリと零れた。  「桐谷」とも「せり」とも私を名前で呼ぶことすらしない彼は、そんなふうに畏まった言い回しをしない。  問いただすと、きっとだるそうに簡単に離れて行ってしまうから。  私は何も口にしない。  骨ばった大きな手は気遣わしげに私に触れ、会えない時間と同じだけ空っぽになった心を満たしてくれる。  彼の身体と私の身体の熱は足して割るとちょうど良いぬるさ。気づかないふりをしていれば幸せでいられるくらいには残酷に優しい。  彼の恋が幕を下ろすまで待つ気でいるけれど。  燻り続けた片恋に、濁り染まったぬるま湯に潜り、祈るように呟く。  「百年も待っていられないよ。」              〈了〉
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