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 その映像を薄暗い部屋に置いた煌々と光るパソコンのモニタで見つめている、ジャージ姿の女性がいた。彼女はつまならさそうにブラウザを閉じると、サイドテーブルに置いたスマートフォンがまだ震えているのを鬱陶(うっとう)しく感じて、電源を切る。  成田ツムギという名前を彼女は持っていたが、それを知るのは世界でも家族や同級生の一部、後は専門学校時代の同期生くらいなものだ。  それでもこう名乗れば、誰だって振り返って驚くだろう。  ――わたしが魔璃亜の中の人よ。  “中の人”とは着ぐるみやアニメーション等の声を担当している人間を差して使われる俗語で、そのものの中に入って声を出しているというイメージから来ているのだろうが、ツムギはその呼び名があまり好きではなかった。その好きではない呼び名の“中の人”としての活動を今、自ら終えた。  パソコンのモニタ上部に付いた小型カメラはつい五分ほど前まで彼女を認識し、その表情の変化を仮想空間のもう一人の彼女である魔璃亜にリンクさせていたが、もうその必要もなくなり、今はただ彼女の方を向いているだけの置物だ。モニタの前で大きなコンデンサマイクが七色の光を出していたのも、今は静かにその役目を終えて暗く沈んでいる。  ツムギはマウスを操作して、少しSNSを眺めようかと思ったけれど、それすら今はやる気が起こらず、パソコンの電源を落としてしまった。  ゲーミングチェアに思い切り背を預け、伸びをする。  たった三年。  それは中学や高校を入学してから卒業するまでの期間と同じだけれど、学生時代とは違い、何をしていたか分からないまま一瞬で過ぎ去ってしまった。やり終えた、やり切った、というよりは、ただただ疲れ果て、今は何日もゆっくりと眠り続けたい。そんな気分だ。  底に(わず)かばかり残るペットボトルの水を飲み干して立ち上がると、ツムギはその暗くて狭い部屋を出た。以前は父用の書斎としてあてがわれていた一階の一室は、ツムギの仕事部屋としての地位を確立していた。けれど魔璃亜を引退し、ここも使う必要がなくなるかも知れない。そう思うと、何とも云えない寂しさが湧いてきたが、それも一歩足を踏み出せばどろりとした疲れにまとわりつかれて、頭の中から消えてしまった。  既に時刻は十二時を超え、両親ともに眠っている。  足音を立てないように注意しながら廊下を奥に進み、自分の寝室に滑り込むと、着替えるのも面倒になり、ツムギはそのままベッドに倒れ込んで眠ってしまった。
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