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初めてのお仕事
今年一人前の魔女になった、ミンツは初めてのお仕事をすることを命じられた。
それは木々の葉っぱを染める事。
四季をつかさどる魔女には魔女学校を優秀な成績で卒業したものが配属される。ミンツは今年優秀な成績で卒業して、四季をつかさどる魔女の仲間に配属された。
⦅春の魔女⦆
彼女たちは空気を温かくし、草花や木々に春が来たことを教える。そうすると木々は芽吹き草花は花を咲かせ始める。比較的のんびりとできるので、四季をつかさどってきた往年の魔女たちが世界の各地に足を運び、南の方から春を呼び起こす。この仕事は魔法が確かでないと花を咲かせる順番を間違えることもある。そんなことが起きたら大変なので、のんびりと考えて作業ができる、超、ベテランの魔女たちが集まるのだ。
⦅夏の魔女⦆
彼女たちは段々と空気を暑くし、木々は葉を繁らせ、夏の花が咲き乱れる。
難しいのは雨の降らせ方。最近は温暖化が進み雲が勝手に災害を起こしてしまうこともある。夏の魔女たちはなるべく人の住んでいない所で被害が起きる様奔走する。
乾燥しすぎている土地には雨が降るよう雲を集める魔法をかける。
夏の魔女は人間の生死を分ける農業に大きく影響するので、この部署にはベテランの魔女が配属される。
⦅秋の魔女⦆
夏の魔女たちのおかげで収穫に喜ぶ人間たち。
暑さも少し減らして、木々が色づきやすい様に魔法をかける。朝と晩は少し寒くする魔法をかけておく。
彼女たちは夏に疲れ切った木々の葉を色とりどりに染め抜き、人間にも秋が来たことを教える。空気は少しずつ温度を下げるが、そして、綺麗に木々が色づいた後は、葉っぱは来年の春の為に地面に落ちていく。
難しいのは少しずつ温度を下げることと、綺麗に色づいてはいけない樹には気を付ける事。これは常緑樹と言って一年中緑を保って人間の目を楽しませるのだから。
⦅冬の魔女⦆
彼女たちは落葉した頃から活動し始める。まずは、木枯らしを一つ吹かせると冬の魔女たちの仕事が始まる。
雪の降る地方には雪を降らせ、そうでない地方には適度な寒さになる魔法をかける。
毎年の気象状況を把握し、来年の春の水分量も把握し、人間があまり困らない様に魔法をかける。
しかし、夏と同じで最近は地球の気候変動が大きいので、冬の魔女もベテランの魔女が配属される。
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さて、初めて秋の魔女に配属されたミンツはまず、木の葉を綺麗に染めるよう、先輩から言われた。気温の調整は難しいので、先輩たちが手伝ってくれた。
後は木々の葉が綺麗に色づくよう木々に囁くのだ。
ところがミンツはうっかり間違えて、松の木に紅葉の魔法をかけてしまった。
人間はびっくり。朝起きたら、松の木が黄色く枯れているように見えたから。でも、おかしなことに赤くなっている松葉もある。
「病気かな?」
慌てた人間は樹医と呼ばれる樹のお医者さんを呼んできた。
樹医にもさっぱり訳が分からなかった。特に病気の菌は発見されなかったし、樹自体は元気なのだ。ただ、やっぱり常に緑だったのに色づいてしまった事で、松は少し恥ずかしそうではあったけれど。
先輩の魔女たちは大急ぎで松の木の魔法を解除した。
次の朝にはいつもの松に戻っていた。
ミンツは先輩たちに厳しく指導を受けたがそれは自分のせいなので仕方がない。でも、他の葉っぱは綺麗に紅葉して、こちらは褒めてもらった位だ。
次の秋の季節まで、ミンツは秋の魔女の勉強を深める。今年の様に失敗しない為。そして、もっときれいに葉っぱたちを染められるように。
ベテランの魔女を目指して、いつの日か年老いて、みんなが喜ぶ春の魔女になる為に。
ミンツの修行はまだまだこれからなのだから。
【了】
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