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「それじゃ、おやすみ」
「うん、遼馬、楽しかった。おやすみなさい」
今日のデートで三回目。
瑠夏から手を繋いだり、腕を組んだりはしている。だが、それ以上は無い。
瑠夏を家の前まで送りとどけて、手を振って遼馬は夜道を歩いて行った。
瑠夏は門の前でずっと遼馬を見送っている。道路を曲がる時、振り返ってくれるかなって思うけど
遼馬は一度も振り返らず、あっさり見えなくなった。
瑠夏は口を尖らせながら門を開けた。
遼馬は歩きながら夜空を見上げた。顔がひんやり濡れている。
「雪……か」
雪が降ると、咲を思い出す。いや違う。雪が降らなくても咲を想っていた。
「もう、十年か。忘れないとな」
髪の毛に降り積もる雪を、ブルブルって頭を振って落とした。
遼馬は駅まで雪を払いのけるように全速力で走った。一緒に咲の想い出も、振り払うかのように。
着信音が鳴った。瑠夏だ。
「すごい雪だから、遼馬大丈夫、車で送ろうかなって」
「ありがとう。もう駅だから大丈夫やで」
遼馬は改札を通った。
「えっ、もう駅に着いたの。早っ」
「久しぶりにダッシュした。まだまだ、いけるわ」
最終電車前の日曜日で駅はかなり混んでる。電話するために、足を止めて通路隅に寄った。
「ほんと、さすがね、エースで四番だもんね」
「それ、高校の時だけな」
「遼馬は大学でもすぐレギュラーだし凄かったよ」
「そんなに褒めてくれるの瑠夏だけ」
足早にホームに行く人が増えてきた、遼馬が人混みに目をやると、グレーのコート、チェックのマフラー姿の女性に目が止まった。
「あっ、あっ」
「どうしたの」
「じゃあ、電車くるから、ありがとう」
「ううん、じゃね」
終了ボタンを押しかけた瞬間
「さきー」
「エッ」
瑠夏はスマホを耳に当てた。もう、電話は切れていた。
「今、サキって、まさか」
瑠夏は鍵が付いている引き出しを開けて黒い箱を取り出した。写真が束になって入っている。全部中学時代の遼馬を隠し撮りした写真だった。野球の試合や登校写真、遊園地で遊んでいる写真もある。ジェットコースターで隣に乗っている人物は、真っ黒に塗りつぶされている。他の写真にも真っ黒にされている人物がいる。
「遼馬は私のものよ」
瑠夏は一心不乱にナイフで真っ黒な人物を切り刻んで、ナイフを壁に投げつけて泣き出していた。
「咲、咲、咲」
大声で名前を呼ぶが、グレーのコートの女性は無視をして、地下へ降りるエスカレーターに乗ってしまい、見えなくなった。
人混みをかき分けるわけにもいかず、イライラしながらエスカレーターの順番を待っていた。
電車がホームに入ってくる。
「あーちょっと待って」
プッシューン
電車はホームを出発した。
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