囁き

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夏に咲いた入道雲が、 春に息吹いた風が、 冷たくなった亡骸が、 一つしかない青い大空に、 意味もなく聳える。 僕は、生まれてくる事より、死に逝く事の方が、難しいんだなぁと思った。 目を覚ませば、息が出来るわけで、 高層ビルから飛び降りれば、意識が無くなるわけで、 生まれてくることを支えてくれる皆は、笑顔。 死体の掃除をする人は、俯き、溜め息を吐く。 誰も迷惑をかけずに死ぬのは無理。 だから、笑っていようと、心に刻んだ。 ビルの屋上を流れる季節風も、 病室に溢れる静謐な春風も、 独りが寂しいこの大雨が降っている中に沈むしっとりとした空気も、 さぁ、 温かい息を吐き、携帯を眺め、過去に浸るのは、どう考えても悪いことではない。 夢、は、わ、た、し、と、い、う、道、を、つ、く、る、事、で、す、。 そんな自分を、蔑み、嗤いますか? 僕は、ドアを開けます。もう此処へは戻って来れないように、
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