157人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
「雪人さんは遅い?」
「父ちゃんはどうせおせーぞ。なんだ、約束でもしてたのか?」
俺と天が参戦してから、餃子包みから離脱した兄貴がタバコに火を点けながら答える。
天はうーんと一つ唸った。
「会社のゲームくれるって言ってた」
俺の父親は良くわからないが商社勤めで、ちょいちょいゲームソフトを持って帰って来る。
しかも何故かギャルゲーばかり。
どうにも俺には向かないが、天は狙ったキャラは全部落とすんだそうで、どうやら何かの実験台にされているフシがある。
ゲーム上では顔面の効力はないだろうに、それでも女に困らないというのも恐ろしい。
「ゲームより勉強なんとかしろ。お前、このままだとまた赤点だぞ」
ちまちまと餃子を包みながら小言を言うと、天が小さく首を傾げる。
「……補講いっぱいだと……晴ちゃんと一緒に帰れない……」
「おう、だからなんとかしろ。勉強は見てやるから」
真面目な会社員である父ちゃんの影響で、俺は兄貴と真逆に育った。
兄貴は勉強が向いていないと言って自由に生きて、俺は自由に生きるために勉強してる。
成績が残せれば教師も色々黙認してくれるし、ある程度の権力があれば多少の傘にはなってくれるから、生徒会なんてものにも入った。
「オレ、がんばるね」
「ん。頑張れ」
このふわふわの笑顔に、吉田に向けるような熱は見当たらない。
それが苦しくて、少し悔しい。
「あんた達はホント、仲がいいねえ」
呆れ気味に呟く母ちゃんの言葉が、棘のように胸の奥に刺さった。
最初のコメントを投稿しよう!