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「しょーがねーだろ。天はオメェに近付く女全部蹴散らすわ、晴はニブチンな上にカタブツだわでンなコト出来ねえと思ったんだから。男同士の事なんざ俺には教えらんねーから、せめて女だけでも知っておけと思ってよ。後腐れなく筆おろしさせてくれるって女がいるんなら、都合が良いじゃねえか。俺はもう随分前からお前らの事を許してたんだよ」
兄貴がしかめっ面で歩きながら煙草に火を付ける。
普段なら気にしないはずの兄貴が換気扇を回しに行ったのは多分吉田とタキに配慮したのと、なによりバツが悪かったからだろう。
「親としては複雑だったんだ。晴だけの事なら、俺達も反対してた。けどな……天も俺達にとっちゃもう息子みたいなものだからな。随分悩んだけど、2人がそれぞれの意志で選んだなら認めるつもりだったんだ」
「自分が天をどう想ってるか、晴が気付かなきゃ良いと思ってたんだけどねぇ……こうなりゃもうどっちがどっちでも良いさ。息子達が幸せだって言うんなら」
同性同士の恋愛っていうのはやはり世間から見れば肩身が狭い。
親としては俺達の事を考えて出した条件だったんだろう。
『普通』に生きられるなら、その方が幸せだろうと。
でもこうなった今、父ちゃんも母ちゃんもどっか諦めたような、晴れやかなような顔で清々しく笑っている。
「ご……ごめん、もう容量オーバー。一回寝かしてくれ」
一度に多くの事が起きすぎて、いよいよ熱が上がったらしい。
頭の中を消化するまで少し休みたい。
世界はいよいよぐるぐる回っていた。
祝福ムードのリビングから自室に引き籠もる。
一緒に二階へ上がろうとした天の申し出は断った。
よく知らない俺の家族に囲まれてたら、肝が据わった吉田はともかく、タキが気の毒だ。
天の不満そうな顔は階段の影で俺を抱き締めて頬にキスしたら一転して、これ以上ないくらい幸せそうな笑顔になる。
俺は6年もこれに気付かずにいたとは……全てを知った今となると、もはや信じられない。
それにしても、なんだか不思議な一日だった。
けれど俺は……目が覚めた後で全てが夢じゃないようにと願いながらベッドに入った。
長く続いた壊れたはずの初恋がせっかく叶ったんだから。
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