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ドリンクを置いて移動が始まる。出口から遠かったので、暫く待つことになるだろう。人の波に逆らってこちらに来る姿に気付いて、顔を上げた。
「お、ナマ彰」
「ちょっと失礼だよ」
後ろから咎める声。それに思わず笑うと、砂野の少し強張っていた顔が緩んだ。
「主役、大地から取るなよ」
「主役出たら皆俺のこと忘れるって」
主役を取っている自覚はあったらしい。前の方にいた高校の同級から砂野は呼ばれ、行くのを渋っているところで背中を押した。早く行ってこい。
少し不満げな顔をしながらも砂野は前へと行った。大学の友人等とは後ろの方で固まり、椅子に座った。
「海翔!」
披露宴の席で友人たちと談笑していると、名前を呼ばれた。席が大学の方に入っていたのは大地なりの気遣いだと思う。
声の方を見ると、砂野と大地が二人手招きをしながらこちらに近付いてきた。
「何だよ怖い」
「写真撮ろう」
「お前らそんな仲良かった?」
「一年のとき同じクラスだった」
それは知らなかった。俺はとりあえず立ち上がり、大地の横に並んだ。
撮るよ、と大学の友人が携帯を持ってくれる。
「おめでとう」
「ありがとう。これからもよろしく」
「俺も入れてよ」
「砂野は有名になりすぎ。気軽に呼べない」
「気軽に来たけどね」
「なんか喧嘩したんだって?」
大地が苦笑しながら尋ねてくるので、じろりと砂野を睨む。
「喧嘩するくらい一緒に居るなら良いんだけど」
「田澤って懐深いな」
「一緒には住めないから、悪いけど」
「ん?」
「前に海翔に言われたんだよ、可愛い猫もついてくるって」
くるりと砂野がこちらを見てくる。俺は反対に視線を逸らした。
「ふーん」
視界に入り込んでくる顔。
「お、地雷?」
「ふーん」
「じゃあ俺はあっち行くから。仲良くな」
「大地、置いてくなよ」
「いや一緒には連れていけないだろ」
笑われた。確かにそうだけれど。
次のテーブルで待っていた新婦がこちらを見て苦笑している。すみません、と頭を下げた。
「ふーん」
「……何」
「田澤とは一緒に住めるんだ」
「……軽口だろ」
「ふーん」
言いたいことは分かるが、俺はそれを認められなかった。砂野は先にくるりと踵を返す。呼ばれたのに、俺が一人その場に置いていかれた。
恋愛ってこんなに難しかったっけ。
披露宴を終えた後、ロビーで会った高校の友人たちと話していた。二次会に呼ばれたけど、今日は予約が入っているのでその時間までには店に戻らないといけない。大学の友人たちからの誘いも同じように断った。
「店やってんの? 今度行くわ」
「いや来なくて良い」
その件を何度やったことか。
砂野の姿は見えなかった。後からダラダラと女子たちと出てくるのだろうと予想して、俺はさっさと式場を出た。
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