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家にいるユズさんに飯をやると、明日の分の猫缶がないことに気付いた。気付くのがいつもぎりぎりだよな、と思いながらコンビニへ出る。
今は猫缶も売ってるから便利だ。今も、と言いながらいつから売っているのかも知らないが。
ぎりぎりでも、手遅れになる前で良かった。明朝、ユズさんに鳴かれながらコンビニへ走るよりは。
ついでに自分のパンでも買うかと先にパンコーナーへと足を向けた。
「城山だ」
名前を呼ばれ、その方向を見る。
サングラスをしたその人物がこちらを向いていた。思い当たる節が無く、店の常連から前の会社の同僚たちの顔を端から端まで思い浮かべるが、誰も当てはまらない。
「え、城山だよね?」
再度問いかけられる。
誰だ。
「……一体、どちら様で……」
「砂野だよ、砂野彰」
サングラスをちょっと上げて、砂野は笑った。昔からよく笑ってる奴だった。
いつも機嫌が良さそうに笑ってるけど、案外人が居ないとぼーっとしていて、眠そうだった。
その顔が見られる優越感に浸ったこともある。
「ああ」
驚き、何も言えなかった中で、声が漏れた。
本当に、"あの"砂野彰だ。
「城山、ここら辺に住んでんの? 今から飯? それならどっか飲み行こうよ」
と、懐かしさを覚える暇もなく、砂野は近付いた。相変わらずの距離感だ。俺は半歩下がると、半歩詰められる。
「悪いけど、ユズさんがいるから帰らないと……」
そう、猫缶を買いに来ただけなんだ。ついでに自分のパンを買おうとしただけで。
「え、一緒に住んでんの?」
「ん。半年前に」
「どこで知り合ったん?」
「柚子が丘クリニックってとこの路地で。声聞こえて近づいたら、ビニール袋の中に入っててさ」
「袋? やばいじゃん」
「本当、最低なことする奴もいるよな」
「ちゃんと警察届けた?」
「いや、とりあえず家に連れて帰って」
「え」
「暖めてからミルク飲ませた」
「え?」
「え」
オウム返ししてしまった。不審感ばりばりの視線を向けられ、今の説明の何にそこまで思われないといけないのかと考える。偽善的だったとか、そういうことか?
砂野はサングラスを戻し、一瞬天を仰いだ。
「なんだよ」
「さっき帰らなきゃって言ってたけど」
「ん? うん」
「まさか閉じ込めてたり……」
「鍵はきっちり閉めてきた。あとは大暴れしてないと良いけど」
最近一人遊びが乗って一人運動会が開催されている。走りまくり障害物を乗り越えまくり最終的にベッドの毛布に突っ込んでいた。可愛いけれど煩い。
「あ、明日の飯も買っていかないと」
「城山、今からでも遅くねえから」
「これ好きなんだよな」
日用品コーナーの角に猫缶を見つけて手に取った。
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