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「砂野は? 高校の時途切れなかった彼女は」
「あー今は全然」
「意外。職場とか……俳優とか?」
「いや、ないない。あの人たち皆きらきらしててさ、眩しすぎる」
けらけら笑って砂野は手を振った。砂野にとって眩しいだなんて、俺が見たら目が潰れるんじゃないか。思わず苦笑した。
割りばしでカクテキをつまむ。
「随分遠いところに」
「うん?」
「元気そうで、良かったと思って」
ネットで見ることはあったけれど。
「テレビ見れば……ってこの部屋テレビなくない?」
「線の位置が面倒で入れてない。ユズさんが暴れて倒したら危ないし」
「ユズさん、そんなに激しい運動してんの」
当の愛猫はベッドの真ん中ですやすやと眠っている。
こうして人の起きている時間には眠っているが、こちらが眠っているのを確認すると部屋の端から端へダッシュを始める。日中遊んであげられないストレスなのか……と思って、休みの日に息切れするほど遊んでも同じ結果なので、これは習性なんだろう。
砂野は眠るユズさんの後頭部を静かに撫でた。動物病院ではシャーっと威嚇する姿しか見たことが無かったけれど、家に人が来るのは許せるらしい。猫って不思議だ。
「かわいい」
「俺もユズさん来るまでは猫なんて興味なかったけど、一緒に住んだら変わった」
「城山の婚期が遠のく一方じゃん……」
「それを言うな」
けらけら笑いながら夜は更けていった。
明け方に砂野は帰って行った。
ユズさんに「またなー」と言いながら猫缶をあげて。
それから可笑しなことに、本当に砂野は数週間に一回くらいの頻度で連絡を寄越した。店が空いている時間を見計らって飯を食べに来たり、外に飲みに行ったり。
高校の頃に戻ったみたいで俺は懐かしさと同じくらいに膨れる好意を抑えていた。だから、いつかは拒もうと思っていたし、断ろうと考えていた。
何かが砂野に伝わって、この関係性が崩れるのが恐ろしかった。
俺の家には相変わらずテレビは無く、熱愛報道もあの液晶画面で見たきりだった。
なんとなく砂野に連絡するのも憚られて、かと言って砂野から連絡がくるわけでもなく、そのまま時間は過ぎた。
あの頃と同じだ。神様も猫も砂野も気紛れで。
自分の好きな時にしか、俺は相手をしてもらえない。
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