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大地が首を傾げて少し笑う。
「でもさ、海翔と一番仲良くなかった?」
「え? それは無いだろうけど」
「クラス離れてても、なんかいつも砂野って海翔にくっついてた印象がある」
「いつもじゃない。偶に。あいつって気まぐれだから」
言いながら、あーやっぱり胸が痛いなと思う。
丁度バスが来て、会話が途切れた。それで良かった。
「俺さ、砂野が好きだったんだ」
ぽつりと溢れて、やっぱり堰き止められなかった。
それを誰かに言いたかった。聞いてほしかった。自分勝手で、自己満足だけれど、俺の気持ちがそこにあったのだと証明したかった。
「……ごめん、こんな話。暗いな。やめよう」
「いや、聞くよ。暗くない」
「……大地、結婚止めて俺と一緒に暮らそーぜ」
「それは断るけど」
「家には猫がいる。可愛い」
「う、心惹かれる」
ふ、と笑いが漏れた。猫かよ、俺じゃないんかい、と笑い合う。
「好きだった奴と再会したんだって、誰かに言いたかったんだ。でもきっと、もう会わない」
「え、あー……諏訪あけみとだっけ?」
「まあ普通に、幸せになってくれればそれで良いしな」
窓に肩をつける。酒を飲んだ後の、酔っているときの癖なんだろう。居酒屋でも壁にくっついていることが多い。
冷たくて気持ち良い。
「高校のとき、海翔と砂野が一緒にいると二人の世界って感じだったけど」
「いやーあいつは結構女子侍らせてた」
「言い方……」
「一緒にいても、世界は違った」
それは今も同じことだ。
家に帰ると、玄関の前に座り込んでいた。開いた缶ビールが足元に置いてあるのが見える。当人は眠っているのか、膝に顔を埋めたまま動かない。
これ、砂野だ。
肩が上下するのが分かり、生きているのは確認できた。缶ビールの横に置かれたコンビニ袋の中には、惣菜パンと猫缶が覗いている。
逃げたい。見なかったことにして、ここから立ち去りたい。
もう会わないだろうと思っていた相手が目の前に現れるのはこんなにも感情がぐちゃぐちゃになるのだと知る。俺が今までしてた恋愛って恋愛だったんかな。
いや、これが恋愛じゃない可能性もある。
多いに、ある。
でもここから逃げて、どうする。かけ込める友人の家は何軒かあるけれど、朝になったらユズさんに飯をやらねばならない。
「あ、城山」
と、迷っている間に起きてしまった。
「……人の家の前で眠るなよ」
「もー連日移動時間に睡眠取ってて、死ぬかと思った。労働基準法って何かな?」
「俺もそれは思ったことある」
「よく寝た……」
「いやそこで寝るな……」
んー、と猫のように伸びをする砂野がそのまま手をこちらに伸ばした。渋々その手を掴むと、ぐっと力を入れて立ち上がる。
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