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俺はさっと階段下へと視線をやった。
「お前、こんなとこに居て良いの?」
「漸く休み貰ったんだから。好きな場所で寝かせてほしいよ」
「再三言うけど、人の家の前で寝るな」
「あ、ユズさんに猫缶と、城山にパン買ってきた」
「……ありがとう」
言外に家に上げろと示す。俺は家の鍵を回す。鈴の音が聞こえ、ユズさんがそこにいるのだと分かった。
俺と砂野を見上げたユズさんは俺の足元へ擦りより、砂野の足元にも少し寄って、リビングへ帰って行った。
「感動の再会なのにあっさりしてる」
「感動なのか……?」
意外に残念な顔をしている砂野は慣れたように鍵を閉めた。リビングへ行って電気をつけると、ユズさんは既に猫ベッドの中で丸まっていた。
「酒、冷蔵庫いれとくー」
「ああ」
「城山! ローストビーフがある!」
「知ってる。食って良いよ」
男子学生のようにローストビーフに食いつく砂野を横目に、ユズさんの水を換えた。タッパーに入れられた肉を持ってリビングへ行く姿を見る。
俺の部屋には相変わらずテレビは無かったので、静かな空間でローストビーフを食べ始める砂野。不思議な気持ちでそれを見ていた。
「城山、どこ行ってたの」
まさか尋ねられるとは思わず、顔を上げる。酒はもう沢山で、冷蔵庫に入っていたミネラルウォーターをコップに注いだ。
「……大学の友達と飲んでた」
「へー、俺はずっと玄関で待ってたのになー」
「連絡のひとつも寄越さねえで」
「あ、携帯壊れて。連絡先変わったんだった」
水を噴きそうになる。これ今の、とスマホの連絡先コードを開けてぽいっと投げられる。そういう携帯の扱いで、壊れたんじゃないか。
それを読み取るかどうか迷った。そんな気も知らず、砂野は肉をたいらげて両手を併せた。
「ごちそーさまでした」
「お粗末様」
「眠い」
「は?」
ラグの上で寝転がる姿。
「……家帰れよ、本当」
「寝かして」
と言って、数秒後に寝息が聞こえた。同じくらいの体躯の男を動かす体力もなく、俺は寝室から毛布を持ってかけてやった。
何をしたいんだろうか。俺も、砂野も。
結婚秒読みの彼女がいるならそっちに帰ってくれよ、と喉まで言葉があがってくる。言ったところで夢の中の砂野には伝わらないのは分かっているけど。
考えるのが面倒になり、眠るユズさんの頭を撫でてから風呂場へ行った。
スウェットをそのまま洗濯機へ放り込み、風呂場へ行く。鏡に写った自分の肩に彫られた模様が一番に目に入る。
消えない火傷痕があった。
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