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赤信号
友人の結婚式の帰りだった。
最近、結婚ラッシュだ。確かに皆それなりの歳になったな、と首をまわす。ご祝儀をいつか回収しような、と独身の友人たちと言い合うも、俺にはその順番が来ないことは分かっていた。
明日の朝飯がないことを思い出し、地下鉄から地上に出る。
スクランブル交差点の先に、コンビニが見えた。明日は月曜だというのに、人の流れは昼とそう変わらない。
本当に少子化、進んでるのか?
いや、進んでるか。
見本の一人であった自分に気づき、若干苦笑しながら赤信号を待った。
「え、まじ?」
「まー、お似合いではあるよね」
後ろに立っていた男女が急に声を上げたので、反射的に顔を上げる。交差点の一角に大きな液晶画面。そこに映ったのは、去年の朝ドラにも出演していた人気俳優、砂野彰と同じ事務所の諏訪あけみの熱愛報道。
お似合い、ではある。
ただ、衝撃的だった。
「えーショックなんだけど。明日、仕事行けない。彰ロス」
「結婚したわけじゃあるまいし」
「でも結婚秒読みだってよ?」
横を通っていく女性たちの会話に、青信号に変わったことに気付いた。
皆器用に、俺を避けて歩いていく。
結婚秒読みか、それはそれは。
よろりと最初の一歩を踏み出せば、大丈夫だった。歩ける。知っていた、自分がこんなことではどうにもならないことを、知っていた。
自分の人生の底辺なら、見たことがあるからだ。
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