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「杏奈、僕はね、人間じゃ無いんだよ。ああ言えばこう言う星からやってきた、ああ言えばこう言う星人なんだ!」
向かい合う2人の背後に夕陽を反射した海の煌めきがある。それはカメラのコントラスト調整により眩しくなり、2人の姿はシルエットになった。BGMにシューマン作ピアノ協奏曲イ短調作品54が流れ始めた。
「びっくりしただろ?」
「ううん……人間であろうと宇宙人であろうと、厳は厳に変わりないじゃないの、たとえああ言えばこう言う星人でも」
「ありがとう杏奈」
「でも僕はああ言えばこう言う星に帰らなければならない。西の空に明けの明星が輝く頃、ひとつの光が宇宙へ飛んでいく……それが僕なんだ。さよなら、杏奈!」
「待って!厳!あなたは絶対宇宙に飛んで行けないわ。だって西の空に明けの明星は輝かないもの」
「なんだって?杏奈」
「西の空に輝くのは宵の明星よ、明けの明星なら東の空に輝くわ」
「どうしたんだ杏奈。君がああ言えばこう言う星人になってどうするんだ!」
「ううん、厳。これはああ言えばこう言うじゃないわ。あなたの間違いを正しているのよ!」
「うぬぬ……いや、違うぞ杏奈、僕は倒置法を使ったんだ。『西の空に』と『明けの明星が輝く頃』を入れ替えてくれ、つまり『明けの明星が輝く頃、西の空にひとつの光が宇宙へ飛んでいく』……どうだ!」
「やっぱり厳はああ言えばこう言う星人ね。面倒くさい、朝になったら宇宙に帰るがいいわ、さよなら、厳!」
「はい、カーット。いい画が撮れたよ~」
「満城監督、ウルトラセブンの名シーンが台無しじゃないですか。いくら学祭で上映するパロディ映画とは言え、このラストシーン、セブンファンから大ブーイングで炎上しますよ」
「構うもんか。俺の作品なんだから、俺の色に染めてやるよ」
ーーーーーおしまいーーーーー
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