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バストリーは手にしていた書類を一旦置き、眼鏡を押し上げた。
「この国で殿下に恋せぬ令嬢はおりませんよ」
「……そうか?」
たしかに、俺は金髪碧眼で容姿は整っている。令嬢達から素敵だと、いつも囁かれているのも知っている。
「もし、好意を知りたければ、冷たくあしらい婚約破棄でも匂わせればどうですか? 殿下とテレーゼ嬢は魔法で誓約を交わされた婚約者。どんなに酷い事を殿下が言っても、テレーゼ嬢から破棄する事は不可能。泣きながら、縋ってくるかもしれませんよ?」
「泣きながら……か……悪くないな」
俺はニンマリした。
そう、魔法の誓約により婚約の決定権は、俺にある。
ハイウォール家としては王家との婚姻を絶対に結びたいはず。
いつも冷静で可愛げのないテレーゼが、俺に泣きながら愛の告白をする姿を想像しては、ゾクゾクした。
「しかし、完璧淑女のあいつと婚約破棄する大義名分がない」
バストリーはニヤリと笑う。
「ひとつ、あるじゃございませんか」
俺は、ああ……と声を出した。
たしかに……大義名分になるな。
明日、テレーゼをお茶に誘い、婚約破棄をほのめかすことを決めた。
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