約束

2/15
前へ
/16ページ
次へ
 母親の元へ行くと、夕食の食材だと言われ採れたての新鮮な野菜を渡される。自分はもう少し仕事をしてから家に戻るからと、母はまた畑に戻っていった。  受け取った野菜を煌が持ち、自宅へと続く長閑な一本道を歩く。この時期の野菜はたっぷりと栄養を含み甘味も多い。何を作ろうかと話していると、道の向こうから見知った顔が歩いてきた。  同じ村の中でもとりわけ近い場所に住む弥彦(やひこ)だ。  この村には小さいが宿舎があり、読み書きや外交などを教えてくれる場所があり、そこでも同じ教室の弥彦は、何かとふたりに口を出してくる。いや、ふたりというよりも紗輝に、といった方が正しいかもしれない。 「お前たち、また一緒なのか。いい加減目障りだなあ。良い歳して恥ずかしくないのかよ」  含んだ笑みを見せながら、弥彦が見下げるように言ってくる。顔は悪くないのだが、表情や態度で全てが台無しだ。 「兄妹が行動を共にして何が悪い」 「あなたには関係ないでしょう?」  ふたりが阿吽の呼吸でテンポよく返すと、弥彦は少しずつ顔を赤らめる。 「俺にそんな口を利いて良いと思ってるのか? お前たち如き、父に言えばどうにでもできるんだ」 「あなた、父親の名前を借りなくちゃ何も言えないの?」  紗輝が心底呆れたように言葉を返した。  ギクリとした表情で口を真一文字に結んだ弥彦は、どうにか体裁を保とうと言葉を絞り出す。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加