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母親の元へ行くと、夕食の食材だと言われ採れたての新鮮な野菜を渡される。自分はもう少し仕事をしてから家に戻るからと、母はまた畑に戻っていった。
受け取った野菜を煌が持ち、自宅へと続く長閑な一本道を歩く。この時期の野菜はたっぷりと栄養を含み甘味も多い。何を作ろうかと話していると、道の向こうから見知った顔が歩いてきた。
同じ村の中でもとりわけ近い場所に住む弥彦だ。
この村には小さいが宿舎があり、読み書きや外交などを教えてくれる場所があり、そこでも同じ教室の弥彦は、何かとふたりに口を出してくる。いや、ふたりというよりも紗輝に、といった方が正しいかもしれない。
「お前たち、また一緒なのか。いい加減目障りだなあ。良い歳して恥ずかしくないのかよ」
含んだ笑みを見せながら、弥彦が見下げるように言ってくる。顔は悪くないのだが、表情や態度で全てが台無しだ。
「兄妹が行動を共にして何が悪い」
「あなたには関係ないでしょう?」
ふたりが阿吽の呼吸でテンポよく返すと、弥彦は少しずつ顔を赤らめる。
「俺にそんな口を利いて良いと思ってるのか? お前たち如き、父に言えばどうにでもできるんだ」
「あなた、父親の名前を借りなくちゃ何も言えないの?」
紗輝が心底呆れたように言葉を返した。
ギクリとした表情で口を真一文字に結んだ弥彦は、どうにか体裁を保とうと言葉を絞り出す。
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