盗み聞き

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盗み聞き

それから俺は彼と共に過ごす時間が増えた。 どれだけの価値があるのかは分からないが俺にはかけがいのない楽しみの一つになった。 彼は名をタカハシと名乗った。 俺も同じようにセトと名乗った。 念のため偽名を使った。 彼と話せるのはあと少しだ。 彼は麻薬所持の疑いで逮捕されたのでそう長いことここにいるわけではないのだ。それに比べ俺は──。 「あのさ、もうあと一週間もしたら出所なんだ。まあ元々ここに入ってたのがセトより前だったからね。だから話せる人がいなくなって、その、少し寂しいけど、その、一人で頑張るよ。セトも出てきたら……」 俺はその後に続く言葉を悟った。 「分かったよ」 それから一週間して彼は出所した。 もう俺の隣に人の気配はない。 自由時間、他の囚人から俺のことについて、いや正しくは俺のいる房についての噂話が聞こえた。 あの房は死刑囚が入るところだと。 あの房は暗く隅にあるため最初は脱獄しやすいと考えられていた。そのためあそこに入るのは罪の軽い囚人だった。 しかし、その囚人たちは罪が軽い、つまりすぐに出所できるのでリスクをあまり負わずに出ることができたのだ。 しかしそれを看守は勘違いをし、案外脱獄できないんだな、と思いそこに罪の重い囚人を入れたのだった。 その囚人は気性が荒く犯罪仲間の間では『邪道格闘家』と呼ばれていた。 その男は怪力で仕事にも案外真面目に取り組んでいて看守は感心していた。 しかし全ては男の罠だった。 信用を買った囚人は看守を罠にかけ、ついに脱獄。そんなところまで行った。 しかし彼は逃げているところを射殺され死亡した。 彼の入っていた房の格子はぐにゃりと曲がり人が通れるくらいのスペースができていた。 それから彼の入っていた房は一新し格子は他の房と違うものに取り替えられ、壁も硬い金属を入れられた。 そうして頑丈になったその房は死刑囚が入ることになったのだ。 そんな噂だった。
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