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地道
俺は比較的痩せていて脱獄には向いている体つきともいえる。
俺はしばらくしてついにこの刑務所のいわゆる『何でも屋』を見つけた。
そして難なくヤスリを手に入れた。
ヤスリといっても手に収まるほどの小型サイズで看守にバレないようなものだ。
目的はもちろん一つ。
格子を切る。
看守はこちらの房を見回りには来るが奥までは見にこない。他の囚人の話では持ち物検査は一月に一度の頻度なのでまだ余裕はある。
俺は格子に手をかけヤスリを当てる。
カリカリカリ、と小さく削る音がする。
それと同時に弱い光に照らされて細かい粉が舞う。
それを辛抱強く続けた。
幸い隣の房には誰もいないので物音を聞かれることはない。
どうやらこの房の壁は通常の壁より少し分厚く隣の房がギリギリ聞こえるといった程度のものだった。
なので看守が耳を澄ましてこちらへ来でもしない限りバレることはない。
二週間が経ち、俺は格子の半分に切れ込みを入れるまで削った。
初めは手にマメが出来たが最近ではもうそんなもの関係なく進められるようになった。
それから一週間が経った。抜き打ち持ち物検査が行われた。
何でも屋から日付は聞いていたので全くの抜き打ちではないが。
それからも細心の配慮を心がけながら格子を削っていった。
その中で格子の変化に気づくものはいないと思っていた。
が予想外の出来事が起きた。
格子の外側は塗料を塗られていて剥がれると下から赤色の格子が見え、すぐにバレてしまうからだった。
それに気づいたのは脱獄二日前のことである。
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