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房の中で
夏の日差しが俺の顔を照らす。屋外の空気は澄んでいるが皆それぞれに愚痴を吐いている。真面目にやっている人など若者と年寄り、あとは変わり者だけだ。
ここは横走刑務所。日本で最初の刑務所らしい。
俺のいるのは独房だが隣の房に入っている囚人と話せるくらいの距離はある。
なので俺は隣の房の囚人とは休憩時間でも仕事時間でも構わず話し、そばにいた。
隣の、とは言っても俺の房は一番奥に面しており片側にしか房はない。
奥、ということで少し暗くなっており、看守もチラリと確認するだけでその暗所にまでは踏み込んでは来なかった。
隣の囚人は日本人で、少し昔のヤンキーのような風貌をしていた。
しかしそれとは打って変わって根は優しかった。
話し始めたのは俺がここに来た二日目の夜だった。
ゴホンっと咳が聞こえた後彼は話し始めた。
「あのさ……俺……」
その話し方は少し拙く人と話すのを苦手としているようだった。
「その、君がここに来てからどんな人だろうって思い始めてさ。で、その、仕事の様子とか、その見てたら、なんか俺に似てるって思って……」
最初、俺は独り言だと思っていたが房の中で何もしないでいるよりかは良いのでその話を盗み聞いていた。もっとも彼は俺に聞こえるように話していたのだろうが。
「その、今日、木工でさ、君から組み立て方を教えてもらったんだけどとても話しやすくて……」
今日の午前に誰かに話しかけられた覚えはあったが誰までかは覚えていなかった。ただ俺よりも少し大柄で強面の男だった気がする。それが彼だったのか。
「その、友達、にその、なって……くれませんか?」
「ふぅ……。良いけど、『その』使い過ぎんなよ?」
これが彼との出会いだった。
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