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「あれからっていつの話ですか?最近行ったのは5月だったかな。」
「はっ?」
「えっ?」
青島の反応に、未来は不思議そうな顔をしている。
「美術館に行くのは、何かあった時だと言っていなかったか?俺の接待の件で一悶着あった時、結局は行かなかっただろう。その後、行くようなことがあったのか?」
未来は、あっ…と言って、少し気まずそうな顔をした。
「炊飯鍋の仕事が終わって、少し気分転換したかっただけです。いろんな人に迷惑かけてしまって、反省したんです。」
その話には、濡れ衣とは言え、青島にも分が悪い所もあって、閉口する。
そして表面的には終わったはずの出来事に、ひとり思い悩んでいたのかと、その心の機微に気付けなかった自分自身に腹が立つ。
一方、未来は車内の雰囲気が悪くなってしまった理由がわからずに、無意識に首を傾げた。
それでも、なぜ黙り込んでいるのかと聞いて、余計な波風を立てることをしたくなくて、手持ち無沙汰に時が過ぎるのを待った。
「他に理由はないんだな?」
青島の口調には、心配こそすれ、怒りのようなものは全く感じられなくて、未来はまた自己嫌悪に陥った。
「はい、ないです。」
肩を落として沈んだ声の未来に、何を思ったのか、青島は言葉を続けた。
「お前のことを知りたいと思うことは、お前にとって嫌なことなのか?」
見当違いな青島の問いかけに、未来はハッとする。
「そんなこと思ってません。宏さんは心配してくれているのに、怒ったのかと思った自分が嫌になったんです。」
そんな未来の返事に、青島は安心したように笑った。
「2人ともまだまだだな。」
「何がですか?」
「こんな時に、相手が何を思うのか理解出来ない。だからこうやって話すことが大切なんだろうな。」
「そう、ですね。」
いまいち煮え切らない態度に、青島はまたもや不安になる。
「何か言いたいことがあるなら、言って欲しいんだけどな。」
うーん、と柔軟体操でもするように、首を左右に捻った未来は、ゆっくりと話し出した。
「私が1番感情が動くのって、宏さんのことなんですよね。だから宏さんにだけ伝えたい事もあれば、宏さんだから言えない事もあると思って。」
正に、今の自分の心境を言い当てられた青島は、返り討ちにあってしまったように、動けなくなる。
反応のない青島に、未来は今度こそ機嫌を損ねてしまったかなと、恐る恐る運転席の青島の顔を見た。
「宏さん?」
怒っているのとは違う、軽く目を見開いて、驚いたような顔をしている青島の名前を呼ぶ。
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