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「つまらないこと言ってないで、全部話せって思ってます?」
こちらの様子を伺うように尋ねる未来に、いや、と青島は首を振って答えた。
「分かるよ。その気持ち。」
青島の言葉に、未来は笑みを浮かべて小さく頷き、視線を前に戻した。
青島はそんな未来の様子を横目で確認すると、必死にため息をこらえた。
分かると言った俺に、何かあるのかとは聞かないってことは、自分も聞かれたくないんだろうな。
「参ったな。」
青島の呟きは、タイミング良く起こり始めた渋滞に対してだと、未来は理解した。
観光スポットには、そこで生活する人にとって、なかなか足が向かないものだが、そもそも未来と青島はテーマパークと名の付く場所に、2人で行ったことがない。
特に未来は、広告が溢れている街中で、必然的に交通の便がいい所ばかりに出掛けていたので、あまり遠出をした経験がなかった。
聞く所聞く所、あまりにも未来が行ったことがないと返事をするので、青島は気を良くしてしまい、県境の古い建物が残されている街道に向かうことになった。
計画なしの出発だったので、到着したのは、お昼をとっくに過ぎてからだった。
「人が多いな。観光バスも止まっているし、こんなに人気があるのか?」
青島も予想外だったようだ。
「あの制服、どこかで見たことあるような気がする。」
駐車場を探しながら、ゆっくり走る車の中から行き交う高校生を見ていた未来が言った。
「制服なんて、どこも似たような物じゃないのか?」
青島の言葉に、それもそうかと思い直し、未来も駐車場を探すことに専念する。
ようやく空いているスペースを見つけて、車を降りると、すぐにむせ返るような暑さが襲ってきた。
「まずは軽く何か食べよう。」
遅い朝食だったとはいえ、さすがにお腹が空いていた。
「お蕎麦屋さんとかありそうですね。」
未来は日傘を広げて、青島も入れるように、腕を伸ばした。
「俺は大丈夫だ。」
青島が照れくさそうに傘から出ると、2人は並んで歩き始めたが、地面からの照り返しは容赦なく、額に汗が滲む。
そうしてすぐに、入り口の風鈴に誘われて入った店で、2人はざるそばを注文してから、入り口に置いてあった街のマップを眺めた。
「ひとつの街なんですね。通り一本なのかと思ってました。」
「まさか、こんなに賑わっているとは思わなかったよ。梅雨が明けて、みんな遊びたいんだろうな。」
「そうですね。観光協会も小さなイベントから大きなイベントまで、忙しそうですよ。」
「そうか。代理店はどこまで関わってる?」
肘をついて、パンフレットで顔が隠れている未来に向かって、青島は尋ねた。
何を聞かれているのか、一瞬分からなかった未来だったが、トクンと心臓の音がして、パンフレットを持つ手に力が入った。
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