深浅

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未来は軽く深呼吸すると、パンフレットを持つ手を下ろして、青島を見た。 「道田さんも交えて打ち合わせしたのは、最初の1日だけです。あとは観光協会の橋本さんとのやり取りがほとんどです。」 「そうか。」 とだけ青島が返事をすると同時に、そばが運ばれてきたので、何となく2人は食べ始めた。 「もし逆の立場なら、私は苦しいと思います。今は自分が大丈夫だと分かっているから、やましい気持ちはないですけど。」 「だけど、今度からちゃんと話します。」 そば屋を出るなり未来が言うと、青島は即座に返事をした。 「お前のことは信じているよ。」 お前のことはな、と心の中で念押しする。 「だいたい、その言い方だと、俺に信用ないみたいじゃないか。」 「ん〜。」 と言ったきり、未来は口を曲げて閉ざす。 「気に食わないな。まだ分からないのか?」 呆れた様子の青島を、未来は上目遣いで見ると、何か言いたげな表情で少し笑った。 「この話しは終わりです。せっかく来たんだから楽しまなきゃ。」 確かにこんなに暑苦しい中、無益な話しを続ける道理はない。 「修学旅行かな?」 マップを手にした、男女5、6人のグループの高校生が、あちらこちらで何やら調べ物をしている姿が目に入った。 「お姉ちゃん!」 喧騒の中を大きな声が聞こえて、何気なく声のした方向へ顔を向けた。 「未来お姉ちゃん。」 制服の高校生が未来をめがけて、一目散に走ってきたかと思うと、そのまま未来を抱きしめた。 「(つむぎ)ちゃん⁉︎」 制汗剤と汗混じりの匂いに、未来は咳き込みそうになった。 「お姉ちゃん、どうしたの?やだ嬉しい。なかなか帰ってこないから、もうっ。」 未来より頭ひとつ高くいひょろっとした体が、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。 「紬ちゃん、また伸びた?」 「わかる?どこまででかくなるのこれ。高校に入ってお姉ちゃんみたいに髪伸ばしたのに、これじゃあ全然お姉ちゃんみたいになれないよ。」 「大丈夫。紬ちゃんはかわいいよ。」 「もーお姉ちゃん大好き。お姉ちゃんだけだよ、そんなこと言ってくれるの。で?どうしたの?」 未来はくすくす笑いながら、小首を傾げた。 「紬ちゃんは、修学旅行?」 「修学旅行は3年生だし、こんな近場じゃないよ。2年は宿泊研修だよ。1泊2日で今日帰るんだけどね。」 「そう。元気そうで良かった。」 目を細める未来を、はちきれんばかりの笑顔で見ていた紬の顔が、一瞬で驚きの顔に変わった。 未来が振り返ると、青島が日傘の影から顔を出すように、体を傾けた所だった。 「お姉ちゃんデート?」 えっ?と未来が答えるよりも先に、紬が頭を下げた。
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