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「初めまして、妹の中西紬です。うるさくして、ごめんなさい。」
「初めまして、青島です。よろしく。」
未来の隣に立つと、青島もにこやかに頭を下げた。
「えっ!あの青島社長ですか?わー、お姉ちゃんがいつもお世話になってます。」
紬の反応に不安を覚えて、未来は急に慌て出した。
「あの、紬ちゃん。そろそろ戻った方がいいんじゃない?」
そう言われて、紬は同級生たちの方を見たが、向こうは向こうで盛り上がっていて、特にこちらのことを気にしてる様子はなかった。
「もう少し。せっかく青島社長にも会えたんだし。でも土曜日も仕事なの?大変だね。」
未来は顔が引きつりそうになるのを感じながら、祈るような気持ちで、紬の顔を見た。
「お母さんが言ってたよ。清瀬さんの所にお世話になるみたいだから、安心だって。私が遊びに行こうって言っても、お姉ちゃんは忙しいからって。でも本当だね。」
紬は、まるで青島のせいだと言わんばかりに、チラッと姉の横に立つ男の顔を見た。
「僕も今度ゆっくり話をしたいから、いつでも遊びに来て下さい。なんなら僕の方が、そちらへ挨拶に伺いたいくらいです。」
未来は大きく目を見開いて青島を見上げ、紬は慌てて両手を振った。
「わざわざ謝りに来なくても大丈夫です。お姉ちゃんが仕事好きなのは分かってますから。それと青島社長のこと、いつも凄い人だって言ってます。」
フォローがフォローになっていない紬の必死な様子に、青島は声を出して笑い出した。
その場の雰囲気が変だと、紬はやっと気づいたようで、目が泳ぎ始めた。
「私そろそろ行くね。来月は帰ってくるよね?楽しみにしてるっ。」
紬はそう言って、うだるような暑さもお構いなしに、またもや未来のことを抱きしめた。
「青島社長、お邪魔してごめんなさい。姉のことよろしくお願いします。あとお仕事頑張って下さい。」
最後に深くお辞儀をして顔を上げると、紬は名残惜しそうに何度も手を振りながら、同級生の所へ戻って行った。
未来は苦笑いをしながら、青島の顔を見る勇気もなく、動けないままでいた。
「お互いまだまだ理解が足りないと話したのは、ついさっきだったな。正にその通りだな。」
なぜか楽しそうな青島の口調は、ますます未来を追い込むようだった。
「妹があんなにかわいくて素直だってことも、知らなかったし、楽しい休日になりそうだ。」
饒舌になった青島の話しは、まだまだ止まらない。
「あっ、違ったか。妹の話だと、青島社長と土曜日も仕事らしいからな。」
未来は、そこでようやく、恨めしそうに青島の顔を見た。
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