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ボジョレーヌーボー解禁
「馬鹿みたい」
"解禁、ボジョレーヌーボー"
そのポップの前に並ぶボジョレーヌーボーのボトルを眺めながらつぶやく。
科学技術が進んだ現代でもワインボトルはガラス製というのが常識。
なのに、トライタン製の割れにくいボトルというのが、さらに安物感をさらけ出していてウンザリする。
紀乃典子はイライラしていた。
ただでさえ年末に向けてお金がいる。
彼氏と過ごす為の軍資金が必要なのに、6000円も搾取された。
説明しよう。
一時期、世間で騒がれたコンビニ店員のノルマ問題。
全くと言っていいほど無くなっていない。
「みんな、ボジョレーヌーボー2本は売って下さい。売れないなら自分で買い取ってね」
店長からのノルマという名の脅迫。
典子はようやく21歳になったとこ、お酒の良し悪しなんか分からないし、友人もそうだ。たまにジュースみたいなチューハイをちびちびするくらいしか嗜んでいない。
1本2980円の本場じゃ誰も飲まないワインなんて欲しい訳が無い。
自腹回避のために、何回か一般のお客さんに
「あ、あ、あの・・・ボジョレー・・・いりま・・・せんか?」
と頑張って営業トークをしてみたが・・・
3回冷ややかな態度を取られた時点で典子の心は完全に折れてしまった。
典子はノルマ期限までまだ数日あったが、諦めて早々とノルマ分を買い取った。
さっさとノルマのプレッシャーから解放されたかったのだ。
本当に6000円の出費は痛い。
約1日分ただ働きだ・・・。
さらに来週からは看護大学の実習が始まる。
実習が始まるともうバイトは出来ない。
そうしてるうちにクリスマスが来てしまう。
イリュミネーションを二人で見に行く、最高の恰好をしたい。
本当は彼にお金は出して欲しいけど、彼も同じ境遇の同い年。
それを求めるのは酷というものだ。
やはり自分の分の費用は自分で用意しなければならない。
「はあ・・・」
アパートに帰るとテーブルの上に1本2980円のボジョレーヌーボーを2本並べて置いてみた。
やはり典子にとっては1円の価値も感じられなかった。
やがて、そこにあるだけでイライラしてしまうので、開封しないままゴミ袋に突っ込んだ。
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