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「キキョウ。――キキョウ、どこ?」 「母上。こちらです」  ふさふさとボリュームのあるドレスの裾を優雅にさばき、扉の影から妙齢の貴婦人が現れる。  黒い騎士服。白のハーフマント。金鎖が弧を描くマント留めで胸元を飾る青年は控えめに応じ、長い廊下をゆく足を速めた。「どうしました」  王城は現在、祝宴のさなかにある。  自分は王太子殿下付きの近衛騎士として、今夜の主役である彼らの身辺に侍っていた。  無論、れっきとした伯爵子息という立ち位置もあったけれど。今日という日は、王太子殿下と妃殿下の側に居たかったという思いがある。  母と呼ばれた婦人――ミズホは、さりげなく辺りに視線を滑らせた。  ここには大した物陰もなく、誰も隠れようがない。壁燭台に照らされた、まっすぐな幅広の通路があるだけ。自分たち母子以外にいるのは、通路の両端にある大扉を守る衛兵のみ。  が、彼らは役目に忠実な王国兵であって、幸い間諜ではない。  だからこそミズホは息子をこの場所へと呼び出したのだ。
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