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 裏手のハーブ園は、やはり裏口からが近道らしい。  ルシエラが先に立って外に出ると、日はやや傾いていた。それでも他の巫女たちが懸命に作業するさまが見受けられる。  ちらちらとこちらに視線を寄越すものもいるが、おおむね勤勉な女性たちである。不躾に話しかけたり、興味本位に近づくものはいない。  とはいえ、ある程度()()()話題を彼女らに提供するため、『かりそめの必然性』を演出しつつ、キキョウはおだやかな空気を心がけて問いかけた。 「突然すみません。率直に言いましょう。最近、貴女に接触をはかる商人がいると聞きました」 「お耳が早いのですね。ええ。会話をしたのは数度ですが」 「いつから?」 「いつ……? さあ。巫女院(ここ)は、俗世と違って時の流れが緩やかですから」 「はぐらかさないで」 「あら」  流されたルシエラの水色の瞳に、ほんの少しだけ嗜虐的な光が踊る。  ――ああ。  まだだ。まだ、この女性(ひと)はどこかが欠けたままなのだと感じ取ったキキョウは、深々と吐息した。我慢強く次の言葉を待つ。  ルシエラは、ふいっと子供じみた仕草で視線を逸らした。
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