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「……露草が咲き始める前でしょうか。ふたり組の若い男です。女性向けの雑貨をたっぷり持って参りました。最初は院長様も苦い顔をしておいででしたが、ご覧の通りここには年若い巫女もいますし、純粋に行儀見習いとして押し込められた令嬢もおります。還俗を前提とする彼女らに、世俗との接点を何も与えぬわけには参りませんから。それで、『月に一度なら』と許可を」
「なるほど。行商人の名は? 所属する商会はわかりますか」
ふるふる、とルシエラは頭を振った。
「名前は『キオ』『レッセ』と。ふたりで興した商いだと申しておりました」
「胡散臭いですね」
「同感です」
にこり、と笑う。
――傍目には伸びやかなハーブを選び、客人のために手折るうつくしい巫女。かたや、そんな彼女に思慮深いまなざしを注ぐ見目の良い青年騎士。
困ったように笑み交わすふたりは、遠目には充分秘めた想いを抱え合う禁断の関係に見えた。
それを証明するように、きゃあきゃあと賑わしい声が聞こえる。(※くどいようだが複数方向より)
やがて、そこそこの花束を片手に抱えたルシエラが踵を返す。
「ご所望のハーブは、これくらいが妥当かと。他には?」
「他……ですか」
物腰は柔らかに。口調のみをここまで冴え冴えと徹底させる女性はなかなかいない。
キキョウは今度こそ苦笑した。
「彼らは貴女に何と?」
ルシエラは。
まるで、ハーブの種類を答えるように口をひらいた。
「――『自由になりたくはないか』と。遠巻きに雑貨を見ていたときのことです。腕を掴まれて、やたらと親しげに耳打ちされましたわ」
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